「ユニバース25」という衝撃的な実験をご存知でしょうか?
アメリカの動物行動学者カルフーンによるネズミを使った実験です。
「ユニバース25」は、9フィート四方、高さ4.5フィートの囲いのなかに、カルフーンはネズミの楽園を作り上げました。
囲いは4つに等分され、それぞれに巣作りのエリアがあり、無制限に供給される飴と水のディスペンサーが設置されていました。捕食者はおらず、定期的な清掃により病気も最小限に抑えられていました。ネズミたちには繁栄に必要なものが全て与えられていました。
しかし、最後にはネズミは絶滅してしまいました。実験は25回実施されましたが、全て絶滅という結果です。
1.ネズミによる楽園は25回滅亡した
実験に際して、囲いのなかにオスとメスのネズミを4組、計8匹が入れられました。
その後、順調に繁殖し620匹迄増加しました。
しかし、その時点でネズミ社会にヒエラルキーが形成され始めました。ユニバース25はまだ半分も埋まっていなかったにも拘らず、何故か一ヶ所に集まり始め、決まった巣箱で固まって生活するようになりました。
そして15匹しか入らない巣箱に、なぜか111匹がぎゅうぎゅう詰めで暮らすという不自然なことが起きました。餌場も何ヶ所もあるのに、なぜか同じ時刻に、同じ餌場で、奪い合うように一斉にエサを食べるようになりました。
オスのネズミは、攻撃性を高めるようになり、他のオスだけでなく、メスや幼体にもしばしば無差別に暴力を振るうようになりました。
そうしたカオスのなかで、完全な社会的引きこもりを選んだオスも出現しました。彼らは交尾や闘争をやめ、その代わりに食事と執拗な毛繕いに時間を費やすようになります。
また、メスも攻撃的になり、子供を過剰に保護しつつ他のネズミを攻撃するようになりました。
その後、巣や子供を放置したり、完全に放棄したりするようになり、乳児死亡率が著しく上昇しました。
ネズミたちは交尾を望まなくなり、繁殖力も落ちて出生率は劇的に低下しました。最後の出産は600日目に記録され、920日目には絶滅に至りました。
実験は計25回実施されましたが、いずれのケースも結果は絶滅でした。
2.ネズミの楽園は人間社会に酷似している
ユニバース25実験の結果は衝撃的ですが、人間社会に酷似しています。
日本を例にとっても、地方で過疎化が進む一方で、東京一極集中は進行しています。東京圏でも高層マンションへの居住等、過密化が進んでいます。
満員電車での通勤はユニバース25以上の過密状態といっても過言ではありません。
ラッシュ時の駅構内では、些細なことで口論している光景もよく目にします。そして無関心を装いつつ、うんざりしている自分がいます。
コロナ禍は、そうした過密状態のあり方に一石を投じました。在宅ワークでも実は仕事が回ることが判明してしまいました。
会社でも学校でも、イライラしながら集団行動をとっているのは、ユニバース25のネズミと然したる違いはありません。
3.豊かな環境は社会を向上させず、過密状態が社会を崩壊させる
過剰人口によって社会が崩壊し、最終的には絶滅に至るという厳しい図式が示されました。
無制限の成長と資源消費に直面した人類の潜在的な運命についての警告と解釈する人もいる一方で、社会的役割や刺激の欠如が絶滅をもたらしたとする見方もあります。
ユニバース25では、社会に十分なスペースとリソースがあっても、過密状態が発生し、ストレスフルな社会が誕生し、社会全体が無気力化しました。
1950年の世界人口は約25億人でしたが、2022年に80億人に到達したとされています。2100年には100億人を超えるとの予測もあります。
現在はスペースとリソースが一応は確保されていますが、既にユニバース25の実験で見られた現象が、人類にも発現しています。
今のベースで人口が増加し、スペースとリソースが枯渇した場合、人間世界もユニバース25以上のディストピアとなることは想像に難くないでしょう。
社会のベクトルは簡単には変わりませんが、自衛手段としては過密な都市環境からは適度に逃亡し、自然を満喫しつつ心の安寧を図る必要がありそうです。