例えば「はめじしまて」という文字列を見た場合、 多くの人は「はじめまして」と認識します。
我々の脳は、中間の文字が若干入れ替わっていても、単語の最初と最後の文字が正しい位置にある場合には、正しい単語として認識する傾向があります。
どうしてこんな芸当が出来るのでしょうか。不思議ですね。
実は、人間は逐語的に文章を読んでいるのではなく、イメージの塊で情報処理しているのかも知れません。
1.タイポグリセミアの不思議
文章中のタイプミスやスペルミスを無意識のうちに修正し、正しい単語として認識してしまう現象のことをタイポグリセミアと言います。
以下の日本語と英語の文章は何れもタイプミスやスペルミスが含まれていますが、何故か読めてしまいます。
日本語:「もし このぶしんょうが よめていのるであれば それはタイポグリセミアです。」
英語:「If Yuo’re Albe To Raed Tihs, You Might Have Typoglycemia.」
人間は単語を、一文字ごとに理解している訳ではなく、一つの集合体として視覚的に認識しているので、多少誤りがあっても脳が瞬時に正しい単語に補正し読むことができます。
但し、予測や補正は個人の知識やボキャブラリーに依存する為、個人差はあるようです。確かに「ぶんしょう(文章)」という言葉を知らない子供には、スラスラ読めないかも知れません。
2.エレクトロハーモニクスの不思議
この文字列は読めるでしょうか。
この文字列は「ELECTROHARMONIX」(エレクトロハーモニクス)と書いてあります。
このカタカナの様に見えるアルファベットのフォントは、カナダ人デザイナーのRay Larabie氏が制作したエレクトロハーモニクスというフォントです。「日本人だけが読めないフォント」として一時期話題になりました。
日本人にはカタカナにしか見えないので、「ELECTROHARMONIX」のようにスラスラ読むことが出来ません。カタカナのイメージが邪魔をして集合体としての視覚的な認識が出来なくなってしまいます。予測や補正がうまくいかずに、アルファベットと分かっていても日本人には読みづらいです。英語圏の人々は「ELECTROHARMONIX」と確り読めるようです。
3.人間は構造に縛られている
タイポグリセミアの例にあるように、人間は単語をイメージの塊で認識しています。また、エレクトロハーモニクスの様にカタカナのイメージが強すぎて、英単語のイメージの塊を認識出来なくなってしまうこともあります。従って、誤っているのに読める、逆に正しいのに読めないという現象が起こります。
イメージの塊の認識は、個人差もさることながら、それ以上に所属している文化圏の構造に縛られています。
人間は全く同じものを見ていても、同じように見ていない訳です。
「卍」(万字)は、日本人は寺院をイメージしますが、欧州の人はナチスのハーケンクロイツをイメージするかも知れません。
面白いのは絵文字です。外国人には、おでんは、「▲●●が棒に刺さっている」、天狗は「赤いピノキオが怒っている」、温泉マークは「ホットプレートでの料理」に見える場合があるそうです。
文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースは、構造主義の盟主ですが、構造主義の根幹には人間は自分の意志で生きているつもりでも、無意識のうちに社会や時代の構造に縛られて生きているという思想があります。
例えば、日本語では、蝶と蛾は区別しますが、フランス語ではどちらもパピヨンです。日本人にとっては、蛾より蝶の方が華やかなイメージが強いように思いますが、両者を区別しないフランス人のイメージは日本人とは微妙に異なるはずです。
虹も同様です。日本では七色と捉えますが、アメリカ・イギリスでは六色、ドイツ・フランス・中国では五色、ロシアでは四色です。
言語や文化圏によって、この世界をどう区切るかは異なります。区切り方の異なる世界で生きる人々は、我々と異なる構造の中で生きていますので、異なる思考回路を持っています。
人間は全く同じものを見ていても、同じようには見ていません。大括りに文化圏で見た場合もそうですし、同じ日本人でも属するコミュニティによって違うものを見ています。
面白いと思うか、面倒と思うかによって社会との関わり方が変わります。
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