千の顔を持つ英雄(ジョゼフ・キャンベル)

孤独

1949年に上梓されたジョゼフ・キャンベルの「千の顔をもつ英雄」は、世界中の神話を調査・研究し、どの神話にも共通する構造があることを明らかにした神話学の名著と云われています。
ジョージ・ルーカスがキャンベルの理論に大いに感動し、その英雄伝説の基本構造を大ヒット映画シリーズ「スターウォーズ」に適用して大成功を収めたことで有名です。
その基本構造とは、「セパレーション」(出立・旅立ち)、「イニシエーション」(通過儀礼)、「リタ―ン」(帰還)です。
ルーク・スカイウォーカーの冒険は、英雄の旅の典型的なパターンに見事に沿っています。

まとめ
1.セパレーション(出立・旅立ち)
2.イニシエーション(通過儀礼の試練)
3.リターン(帰還)

結論
人生に試練はつきもの。出立から帰還までの一連の物語を繰り返す。

1.セパレーション(出立・旅立ち)

この基本構造においては、大きく2つの世界に分かれています。即ち「日常の世界」と「未知の世界」です。
「日常の世界」にいる主人公は、冒険への誘いをうけ、一旦は不安と恐れから冒険に拒否反応を示しますが、師(賢者)との出会いを契機に、境界を越えて「未知の世界」へ飛び込むことになります。
「スターウォーズ」でも、平凡な生活を営んでいたルーク・スカイウォーカーは、廃品回収を生業とするジャワ族から2体のドロイド(C-3POとR2-D2)を購入したことを契機に、師であるオビ=ワン・ケノービと出会い、未知の世界に旅立っていきます。

2.イニシエーション(通過儀礼の試練)

「未知の世界」に入ると、次の段階に入ります。試練・仲間・敵に出会い、最も危険な場所に接近していくことで、最大の試練を迎えます。そして、その試練を乗り越えたことで報酬を手に入れます。
その後、「未知の世界」から「日常の世界」へ戻りたくないという感情が生じ、乃至は戻ることを引き留める存在が現れますが、最終的に「日常の世界」に帰還することとなります。
「スターウォーズ」でも、ルーク・スカイウォーカーは、密輸業者ハン・ソロやレイア姫と出会い、帝国軍の司令官であり実は父でもあるベイダー卿と戦います。暗黒面に落ちそうになりながらも試練を克服し、遂にベイダー卿の善の心を呼び戻す事に成功します。
ベイダー卿は息子を守るために捨て身の覚悟で皇帝を葬り去ります。ベイダー卿はフォースの暗黒面に囚われた「シスの暗黒卿」から「ジェダイの騎士」へと帰還しますが、最後に息を引き取ります。

3.リターン(帰還)

「日常の世界」に戻ると、再び試練に出くわしますが、成長して復活し、最後に宝を持って帰還を果たすのが英雄伝説の基本構造です。
「スターウォーズ」でも、ルークはベイダーの亡骸と共に崩壊する巨大宇宙要塞デス・スターから脱出し、緑の衛星エンドアにおいて同盟軍と勝利を祝います。ルークは、仲間達、オビ=ワン・ケノービとヨーダの霊体、更に聖なるジェダイの霊体となった父ベイダー(アナキン)とも再会し、遂に迎えた平和を共に喜びます。
「スターウォーズ」に限らず、「ハリーポッター」や「ライオン・キング」等の映画、ホメロスの「オデュッセイア」等の古典や、ブッダの生涯等も、英雄伝説の基本構造に概ね沿っています。
日本の傑作アニメ「千と千尋の神隠し」、「天気の子」、「すずめの戸締り」等にも同様の構造が見受けられます。
ハリウッドで多大な影響力を持つストーリー・コンサルタントの第一人者クリストファー・ボグラーは、キャンベルの「千の顔を持つ英雄」をベースにストーリー構造とキャラクター開発の包括的な理論を提唱し、それが物語創作のデザイン・テンプレートとして、世界中から支持を受けています。
世界中の英雄伝説に通底する基本構造があることに驚きますが、それだけ普遍性があると言えますし、人間が人生において精神的な成長を遂げるときには、程度の差こそあれ、同様のプロセスを経るとも言えます。誰しも「未知の世界」に飛び込むことで成長するからです。
「日常の世界」と「未知の世界」を成長しながら往還し、螺旋階段を上るような歩みこそ、人生の型なのかも知れません。苦しい時こそ、「未知の世界」でのイニシエーション(通過儀礼の品練)に立ち会っているのだというマインドセットが必要かも知れません。

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