SF映画や宇宙に関するドキュメンタリーを鑑賞しつつ壮大な宇宙に思いをはせていると、地球という小さな惑星で起きている様々なことが些末なものに思えてくることがあります。こんな小さな球体のうえで一体何をいがみ合っているのかと。
我々がいがみ合っている最中に、巨大隕石が地球に向かっているかも知れません。杞憂であれば良いですが、そうとは言い切れないでしょう。
原始地球と火星ほどの大きさの天体が激突して月が形成されたという有力な説(ジャイアント・インパクト説)もありますし、巨大隕石の衝突が原因で恐竜が絶滅したとも云われています。
こんな心配をしているのは私だけではありません。地球に衝突する恐れのある地球近傍天体を発見・観測し衝突に関する研究を行うスペース・ガード計画というものがあります。
1.恐竜を絶滅させた巨大隕石
恐竜が絶滅した理由として最も有力視されているのは隕石衝突説です。約6600万年前に現在のメキシコのユカタン半島に巨大な隕石が衝突したことにより、大量絶滅が起きたと考えられています。
隕石の直径は10km程度とされていますが、地球の赤道の直径が約1万2756kmであることを考えると、この程度の隕石でも大量絶滅を引き起こす程の甚大な影響を及ぼすことに驚愕します。
巨大隕石が衝突すると、その衝撃のみならず、大量の塵が発生して大気中に漂い、太陽光線が遮られて地球が寒冷化し、適応できない生物が死に絶えます。また、光合成が出来なくなった植物が激減することで、植物を食べる草食恐竜が死に、今度はそれを食べる肉食恐竜が死にます。
食物連鎖によって生態系全体に影響が及んでしまいます。直径数キロメートルの隕石でも決して侮れません。
2.アーサー・C・クラークとスペース・ガード計画
先述のスペース・ガード計画は、著名なSF作家アーサー・C・クラークが著した長篇SF小説「宇宙のランデヴー」に因んで命名されました。22世紀を舞台に、太陽系に進入した異星の宇宙船ラーマとのファースト・コンタクトが描かれています。当初小惑星だと思われていた宇宙船ラーマを発見したきっかけとなったのが、宇宙監視計画スペース・ガードです。
スペース・ガード計画の統括的な役割を果たしているのは、イタリアに本拠を置くNPO、スペース・ガード財団ですが、1994年に木星に天体が衝突した事件を受けて地球でも起こりうるとの危機感が高まり1996年に設立されました。日本では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)等からの支援を受けた日本スペース・ガード協会が観測を行っています。
重力の大きい木星は、数多くの天体衝突を引き受けることで地球等の太陽系内惑星を保護してきたことから「太陽系の掃除屋」という異名を持っています。木星がなければ、地球に衝突する小惑星の数は1,000倍になると云われています。
3.隕石落下と映画
隕石への潜在的な恐怖があるのか、隕石落下を題材とする映画も沢山あります。
アルマゲドン2009:史上最大の彗星が地球に接近し、そこから分離した巨大隕石がアラスカを直撃。衝突で地球の自転軸が狂い、世界中で地震や磁気嵐が発生。
ディープ・インパクト:巨大彗星の衝突によって大破局を迎えた地球最後の日々の人間模様を描いたパニック映画。
隕石ではありませんが、傑作アニメ「機動戦士ガンダム」では、直径6.4km、全長40km級のスペースコロニーを地球に落下させ、大規模な破壊を行うシーンが出てきます。このスペースコロニーは、恐竜を滅ぼした巨大隕石よりデカいですね。でも人間ならやりかねません。
スペース・ガード計画で地球に衝突する隕石を発見出来たとしても、何も手立てが無ければ手遅れになるかもしれません。
皮肉なことに、正にその時が人類史上初めて世界平和を実現した瞬間になるかも知れません。戦争が無意味になるからです。但し滅亡までの極短期間です。
一方で隕石への対処が手遅れでない場合には、人類は史上最大の結束を見せるかも知れません。但し隕石を破壊するまでの極短期間です。結局、恒久平和は訪れません。
傑作アニメ「銀河英雄伝説」に登場する名将ヤン・ウェンリーがイゼルローン要塞攻略作戦に際して語った言葉を思い出します。
「恒久平和なんて人類の歴史上なかった。だから私はそんなもの望みはしない。だが何十年かの平和で豊かな時代は存在できた。吾々が次の世代に何か遺産を託さなくてはならないとするなら、やはり平和が一番だ。そして前の世代から手渡された平和を維持するのは、次の世代の責任だ。それぞれの世代が、後の世代への責任を忘れないでいれば、結果として長期間の平和が保てるだろう。」
「銀河英雄伝説」ヤン・ウェンリー
正に至言です。「すべての秩序あるものは、その秩序が崩壊する方向にしか動かない」というエントロピー増大の法則に抗うには残念ながら弛まぬ努力が必要です。