滑りやすい坂論法

バイアス

「滑りやすい坂論法」という論理的な誤りがあります。これは、ある行動や決定が連鎖的に悪化し、最終的に望ましくない結果に至ると主張する論理的な誤りです。この論法は、初めの一歩が取られると、制御不能な一連の出来事が起こるという仮定に基づいています。望ましくない状態に滑り落ちるというイメージからのネーミングです。
例えば、「もし学校でのスマホの使用を許可すれば、生徒が授業に集中せず、学業成績が低下し、最終的には教育の質が低下するだろう。」という論法です。
スマホの使用という初めの一歩が、教育の質の低下を必然的に引き起こすかのような論理展開になってしまっています。こういう話は日常でも結構あります。

まとめ
1.風が吹けば桶屋が儲かる、訳がない
2.早まった一般化との組合せで乱暴な展開に
3.二分法の誤謬に繋がる思考停止

結論
事実上、多くの人が、「風が吹けば桶屋が儲かる」と考えている。

1.風が吹けば桶屋が儲かる、訳がない

「滑りやすい坂論法」は、「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺にも似ています。
(1)風が吹くと砂埃が立つ。(2)その砂で目を傷める人が増える。(3)目の不自由な人は三味線をひくから、三味線に張る猫の皮が不足する。(4)猫が不足すれば鼠が増える。(5)鼠が桶をかじるから壊れる。(6)桶が不足するから桶屋が儲かる。
風が吹いてから桶屋が儲かる迄に数段階の因果関係がありますが、全て必然的であるかのように展開されています。
勿論、必然とは言えません。この諺は、一見すると全く関係がないと思われる場所・物事に影響が及ぶことの喩えですが、可能性の低い因果関係を無理矢理に繋げて出来たこじつけの喩えでもあります。風が吹いても桶屋が儲かる訳がありません。
しかしながら、「滑りやすい坂論法」では、この諺のような論理展開がなされ、それが理屈として通ってしまう場合が結構あります。

2.早まった一般化との組合せで乱暴な展開に

日常でありがちな「滑りやすい坂論法」を考えてみます。
例えば「難関大学に入れないと幸せになれない」という場合です。これを「風が吹けば桶屋が儲かる」的に因数分解してみます。
(1)難関大学を卒業すると有名企業に就職できる。(2)有名企業に入ると収入が増える。(3)収入が増えると様々な資産が持てる。(4)様々な資産を持てれば幸せになれる。勿論、(1)~(4)迄の因果関係に必然性はありません。
因果関係に必然性が無いにも拘らず、実際には未だに苛烈な受験競争が存在します。これには、「早まった一般化」が関係しています。
「早まった一般化」の例を挙げると、「富士山は火山である。浅間山も火山である。桜島も火山である。従って、全ての山は火山である。」のような感じです。
先程の例に当てはめると「難関大卒Aは有名企業に就職した。難関大卒Bは有名企業に就職した。難関大卒Cは有名企業に就職した。全ての難関大卒は有名企業に就職した。」となります。以下同様です。サンプル数の極めて少ない帰納法といっても良いでしょう。血液型でA型が几帳面だと思われているのも「早まった一般化」です。実際には統計的なエビデンスはありませんし、何をもって几帳面と定義するのかですら不明確です。
資産が多くても不幸な人は沢山います。資産がゼロでも幸せな人はいます。幸福の定義は人それぞれだからです。
事程左様に、「滑りやすい坂論法」と「早まった一般化」が組み合わさると、根拠薄弱な理屈がまかり通ってしまいます。場合によっては、世間一般の物差しとして扱われることもあります。

3.二分法の誤謬に繋がる思考停止

「滑りやすい坂論法」と「早まった一般化」によって、世間一般の物差しとして定着すると、二分法の誤謬に陥ります。
つまり、「難関大に入学⇒幸福」、「難関大に入学せず⇒不幸」以外の選択肢がない前提で考えてしまい、「難関大に入学⇒不幸」、「難関大に入学せず⇒幸福」という他の選択肢が実際にはあるにも拘らず、思考停止して捨象してしまいます。
実際、「風が吹けば桶屋が儲かる」的な事象は日常生活に溢れているように思います。初めの一歩が取られると、制御不能な一連の大きな出来事が起こるという仮定は、とんでも理論に繋がる可能性もあります。例えば「もし同性婚を認めると、次には人と動物の結婚も認められるようになり、社会の道徳が崩壊する。」という論法です。
脳は基本的に怠け者です。体重の約2%しかないにも関わらず、体全体のエネルギーの約20%を消費します。エネルギー節約の為、脳には怠ける機能がビルトインされています。とある「滑りやすい坂論法」が世間一般の物差しとして一般常識化した瞬間に、思考停止してしまいます。

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