シビュラシステムと自由意志

アニメ

アニメ「PSYCHO-PASS」を視聴しましたが、なかなかの傑作だと思います。凶悪犯罪に立ち向かう公安の活躍を描いた物語ですが、設定がとにかく面白く、ある意味で様々な思考実験を含んだ作品だと思います。
物語の舞台は西暦2112年の日本です。新自由主義経済の歪みによる貧富の差の拡大が原因で倫理・道徳観念の世界的崩壊が起こり、犯罪・紛争の激化に伴う政情不安の為に政府や国家の崩壊が起こった後の世界という設定です。技術開発でエネルギー自給と食糧自給に目処をつけた日本は、なんと江戸時代以来の鎖国を開始し、世界で唯一の平和国家となります。治安維持を担う中枢システムがシビュラシステムです。尚、シビュラとは、古代ギリシャ・ローマの神託を司る女性預言者を指す言葉です。

まとめ
1.犯罪は病気か自由意志かによって社会システムは変わる
2.人間には自由意志がない可能性が高い
3.科学の発展で潜在犯を治療する未来がくる可能性がある

結論
自由意志が無い前提で社会構造を再考する必要がある。

1.犯罪は病気か自由意志かによって社会システムは変わる

シビュラシステムは、市民の精神状態を科学的に分析したデータを数値化した結果導かれた深層心理から職業適性や欲求実現のための手段などを提供する、包括的生涯福祉支援システムです。職業適性の判定など、膨大なタスクを処理するだけでなく、犯罪者になる危険性を表した数値である犯罪計数の計測も行っています。
犯罪計数が一定の基準を超えたまま下がらない者は、罪を犯す前に「潜在犯」と呼ばれる犯罪者として扱われ、社会から実質的に排除・隔離されます。
この点が現在と決定的に異なります。現在では、人間の自由意志によって犯罪が行われると考えるが故に、事後的に犯罪者を罰する方法をとっています。しかしながら、本作品では、「潜在犯」を含め犯罪者は精神障害者の一種と認識されており、犯罪係数が100以上の者は「潜在犯」、犯罪係数が正常な人間は「健常」と呼ばれます。
「潜在犯」含めた犯罪者は他に病気を感染させうる病源的存在として、隔離・排除の対象となります。
現在では、公安は警察の仕事ですが、本作品では犯罪が病気と見なされているが故に、公安局は厚生省の管轄になっています。
トム・クルーズ主演の映画「マイノリティリポート」では、殺人を事前に予知する3人の予知能力者・プリコグを中心とした犯罪予知システムと、殺人を犯す前に犯人を逮捕できる組織・犯罪予防局が存在する世界設定がされていましたが、犯罪を病気とはしていませんでした。

2.人間には自由意志がない可能性が高い

自由意志に関しては、米国の生理学者ベンジャミン・リベットの有名な実験があります。被験者がある動作をしようとする「意識的な意思決定」以前に、「準備電位」と呼ばれる無意識的な電気信号の反応があることが、実験により発見されました。意識的な意志決定の前に、無意識的な脳の活動が既に始まっているということになります。
この実験結果は自由意志の存在について多くの議論を巻き起こしましたが、現在では自由意志は無いという説が有力になっています。
そうなると犯罪も自由意志が原因ではなく、様々な事象が無意識下の脳内アルゴリズムに影響を与えた結果ということになります。
アニメ「PSYCHO-PASS」では、環境によるストレス過多や悲観的な思考によって心理状態が悪化する結果、犯罪係数が悪化するとされています。犯罪の原因に関して自由意志よりも環境に重きを置いていることを勘案すれば、より現実に即していると言えるかもしれません。

3.科学の発展で潜在犯を治療する未来がくる可能性がある

例えば、クレプトマニア(窃盗症)は、経済的利得目的以外で、窃盗行為という衝動を反復的に起こしてしまう精神障害の一種です。物を盗むと自分をコントロールできなくなり窃盗を繰り返してしまう精神障害で、窃盗罪や強盗罪などを犯すことがあります。窃盗行為が自己の欲求不満を満たす場合もありますが、脳神経学的な問題が原因である可能性もあると言われています。
日本では認知が低く、病気と気づかずに窃盗を繰り返し、何度も刑務所に入る累犯者も出ています。必要なのは刑務所ではなく病院です。
犯罪には、病気、遺伝的要因、経済的要因、育った環境等も大きな影響を及ぼすことでしょう。将来的に科学の発展で潜在犯を治療する未来がくる可能性があります。
シビュラシステムが最善の策だとは思いませんが、全ての責任を自由意志に帰するネオリベラリズム(新自由主義)を社会のOSとすることについては再考の余地がありそうです。

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