変化に乏しい日常を送っていると、生活がルーティーン化してしまい、脳への刺激も減るような気がします。健全な習慣を継続すること自体は大切なことですが、持続させる為にも中身を多少変化させることは必要です。
自分でもたまにはっとすることがありますが、過去の選択や出来事が現在や将来の選択肢や結果に大きな影響を与えている場合があります。習慣として定着していることでも、現在では大して意味が無いにも拘らず漫然と続けている場合があります。
過去の選択や出来事が、その後も長期的に影響を及ぼすことを「経路依存性」と云いますが、歴史的には興味深い事例も見られます。
1.キーボードにみる経路依存性
最も知られた事例は、QWERTYキーボード配列です。パソコンで文書を作成する際に、キーボードを叩きますが、一番上の行はQWERTYの順番でアルファベットが並んでいます。このキーボード配列は、パソコンが誕生する以前にタイプライターを使っていた時代から変わっていません。
タイプライターとは、キーボードの文字を押すと、文字が刻まれたタイプバーと呼ばれる金属のアームが動き、インクをしみこませた帯の上からアームに刻まれた文字を紙に打ち付けて、紙に文字を印字する機械です。最近はあまり見かけません。
頻繁に使う文字が隣同士だと、タイプライターではジャミングが頻繁に起こるので、それを避ける為にQWERTYキーボード配列が採用されました。つまり打鍵速度に最適化された配列ではないということです。パソコンにはタイプライターのような金属のアームはありませんので、現在では、世界中の人々が非効率な配列のキーボードを使い続けている訳です。
2.鉄道にみる経路依存性
鉄道のレールの幅を軌間と云いますが、ここにも経路依存性は存在します。
軌間の世界的な標準は1435mmで、日本の新幹線にも使われており標準軌と呼ばれています。世界で初めて実用化された英国の鉄道の軌間が、1435mmだった為です。
但し、JR在来線や多くの私鉄は1067mmです。日本初の鉄道が新橋ー横浜間に開通したのは1872年ですが、その際1067mmという軌間が選ばれました。理由としては、日本の急勾配や急曲線などがあるようですが、決定したのは大隈重信だと云われています。これ以外の種類もあり、民営鉄道の軌間は4種類あるそうです。
首都圏では、銀座線・丸ノ内線を除く東京メトロの各路線が大手民間鉄道の各路線と相互乗り入れを果たしていますが、1067mmを採用していたからです。逆にいえば、1435mmを採用した銀座線・丸ノ内線は、相互乗り入れが出来ません。
最初の軌間の選択が、後々まで影響を及ぼしています。初めから全国で1435mmを採用していたら、日本の相互乗り入れの自由度はもっと高かったに違いありません。
尚、北米・欧州(イベリア半島を除く)・中国は標準軌1435mmを採用しており、長大な鉄道網を構築しています。
3.人間にみる経路依存性
職場でも学校でも、どう考えても無意味なのに続いているジョブは一定程度存在します。改定すべきですが、改定をオーソライズする為の調整が広範囲でコストもかかるので、鉄道の軌間の如く変えることが困難です。
メリットがデメリットを大幅に上回ることもない為、いつまでたっても優先順位が上がらずに万年放置の状態になります。全員が不便を感じていますが、改定するメリットが薄く広がり、長期間に分散してしまうので、コストを回収できません。
個人レベルでも経路依存性は存在します。毎日の食事、掃除や洗濯などの家事、通勤通学の経路、アジェンダが無いのに定期開催される会議、何となく週末に行くファミレスなど、漫然と経路依存に身を委ねていることが多い気がします。
気まぐれで通勤経路を変えただけでも、路傍に咲く花に妙に惹きつけられて、思わずGoogleレンズで調べてしまうこともあります。その花を検索しているうちに、思わぬ発見をして好奇心が勝手に動き出すこともあります。
また、ショート動画をパラパラ見ている中で、ふと心の琴線に触れる言葉に出会うこともあります。
経路から半歩踏み出しただけで、何気に意外なことが起きます。好奇心の散歩です。
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