地球が誕生して約46億年前、地球上で最初の生き物が生まれたのは、約40億年前と言われています。原初の生物は細胞分裂するだけの無性生殖だった訳ですが、やがて有性生殖生物が誕生しました。
恋愛や破局、相互理解の難しさを含めて、性別があることに起因する悩みは、人類の悩みの大宗を占めるのではないでしょうか。複雑な人間関係の原因にもなっており、ある意味で煩わしくもあります。
生物の究極の目的が、生存と生殖であるとすれば、恋愛のない生殖があっても良いし、科学技術の発達によって、人工子宮や配偶子の売買が現実的な選択肢となる時代が到来しつつあるのかもしれません。そもそも性別とは何か、原点に立ち返ってみました。
1.性別があるのはウイルスとの軍拡競争がきっかけ
原初の生物はシンプルな無性生殖の方が優勢だったにも拘らず、手間のかかる有性生殖が誕生したのは何故でしょうか。
原因の一端は、ウイルス等の寄生者の誕生です。生物が高度化するに従い細胞にとりついてエネルギーを奪おうとする寄生者が進化してきます。宿主としてはエネルギーを吸い取られたら、増殖の効率が落ちてしまいますので、宿主側もエネルギーを取られないように防衛上の観点から進化します。いわゆる「軍拡競争型共進化」により、いたちごっこ的な進化が起こります。
一般的には、寄生者の方が宿主より小型であり遺伝子構造も単純ですので、世代交代がスピーディーです。つまり進化もその分早くなります。宿主側は相対的に進化が遅いので、次々に繰り出される新種の寄生方法に対応できません。
そこで、宿主側が編み出した戦略こそ、有性生殖です。遺伝子を宿主同士で半分交換することで、遺伝子の多様性を高め、寄生による全滅を回避することに成功しました。
但し、疑問が残ります。宿主同士で遺伝子を交換し多様性を確保するだけなら、性別が分化する必要はないからです。
実際、単細胞生物のゾウリムシは普段は無性生殖で増えますが、ある程度、細胞分裂を繰り返すと、他の個体と接合して、お互いの遺伝子の交換を行います。接合の後、分裂すれば、多様性は確保されます。
2.多細胞生物は成長に時間がかかるので性別が分化した
単細胞生物であれば、ゾウリムシの様に接合と分裂にる多様性の確保は可能ですが、多細胞生物ではそういう訳にはいきません。
お互いの配偶子が接合した後に、細胞分裂して多細胞の個体に成長するしか方法がありません。
それでも、何故配偶子は卵子と精子の二種類に分かれたのかという疑問は残ります。ゾウリムシの接合のように同種の配偶子が合体すれば足りるような気もします。
ヒントは、卵子は栄養素を蓄えている為に大きい一方で少数であること、精子は小さくて多数であることにあります。
生物が複雑化・大型化した結果、受精卵が細胞分裂して外界に出ても問題ない程度の個体に成長するまでかなり時間がかかるようになってしまいました。栄養を外界から吸収したのでは、途中で成長が失敗するリスクが高くなります。そこで胚が個体になるまでの栄養を蓄えた配偶子として卵子が誕生しました。
卵子は栄養を蓄えた分大きくなり、生産量は限られます。数が減れば配偶子同士が出会う確率は低くなってしまいます。そこで限られた卵子に対して、サイズを小さくすることで、大量に生産可能な配偶子が進化します。これが精子です。こうして配偶子に卵子と精子という二種類が生まれ、それぞれを生産するのに特化した個体としてメスとオスが生まれました。
そして進化の過程で、メスとオスの間の機能的な差異は更に大きくなっていきました。これこそ性別が分化した理由と言われています。
3.魚類と爬虫類には恋愛などない
魚類の鮭の受精プロセスは、まず、メスの鮭が適切な産卵場所を見つけて、尾びれを使って川底を掘ります。ここに卵を産みます。卵が産まれたら、オスの鮭が白い液体(精子)を卵の上に撒きます。つまり生殖について恋愛というプロセスはありません。
爬虫類はどうでしょうか。爬虫類のオスは、メスが交尾を受け入れる準備ができているかを確認します。これは、体の色や振る舞い、フェロモンによって行われます。
確認が取れたら、オスはメスに近づきます。この時、オスは自身の体をメスに見せるためのディスプレイ行動を行うことがあります。オスがメスにアピールする迄は、恋愛的といえないこともないですが、交尾の後はメスが産卵し子育てもしませんので、将来を誓い合うこともありません。
そういう意味では恋愛ではなく性愛です。
家族的な関係を構築する鳥類や哺乳類は、恋愛をすると言えるかもしれませんが、生物進化の過程を見れば、元来、生存の為に恋愛するのであって、恋愛の為に生存するのではないと言えます。
恋愛の為に死ぬのは元来本末転倒ですが、そうはいかないのが人間です。感情は理性を司る前頭葉でしか制御できません。
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