アイヒマン実験(ミルグラム実験)

哲学

アドルフ・アイヒマンは、ナチスドイツ親衛隊中佐で、ホロコーストにおけるアウシュヴィッツ強制収容所へのユダヤ人大量移送を指揮した人物として知られています。
第二次世界大戦後はアルゼンチンで逃亡生活を送っていましたが、モサド(イスラエル諜報特務庁)によってイスラエルに連行され、裁判の後に死刑になりました。
映画「オペレーション・フィナーレ」では、モサドによるアイヒマンの追跡劇が詳細に描かれています。

まとめ
1.悪とは陳腐である
2.思考しない平凡な人間が悪を犯す
3.人間は倫理に反することでも命令があればやってしまう

結論
パワハラの横行する社会では悪は容易に倫理を超越する。

1.悪とは陳腐である

ドイツ生まれのユダヤ人政治哲学者ハンナ・アーレントは、エルサレムの法廷でアイヒマンの裁判を傍聴し、取材した結果を「エルサレムのアイヒマン」というタイトルで雑誌上に公表して大きな議論を巻き起こしました。
そのなかで、ホロコーストの中心人物である大犯罪人アイヒマンのことを「極悪な悪魔」なのではなく「陳腐な悪」であると表現しています。ごく普通の小心者で取るに足らない官僚であるアイヒマンは、命令に従うことで非人道的な犯罪を任務として着実に遂行していました。アーレントは、平凡な人間が如何にして悪を淡々と遂行したのかを考察しました。

2.思考しない平凡な人間が悪を犯す

ハンナ・アーレントは、アイヒマンが犯罪に至った原因は「思考の停止」であると主張しました。
彼のことを「思考しない平凡な人間」であると報告しています。
アーレントのこの考え方は、悪が特異な存在や特別な人物によってのみ行われるものではなく、普通の人々が自分の行動を深く考えずに命令を遂行することで生じることがあるという重要な洞察をしています。
但し、確りと思考したうえで、自分の信念に沿って行動することは勇気のいることです。
ホロコーストに関連して言えば、「東洋のシンドラー」と言われたリトアニア領事館の杉原千畝は、確りと思考して自身の判断で大量のビザを発行し、ナチスドイツから逃れてきたユダヤ人難民を救いました。
日本に帰国した彼を待っていたのは、外務省内のリストラを理由とした辞職勧告でした。彼が人道的立場から発給した命のビザは、正式に外務省本省の許可を得てはいなかった為、その責任を取らされる形で辞職を迫られたと考えられます。
命令よりも信念を選ぶのは、極めて難しいことです。

3.人間は倫理に反することでも命令があればやってしまう

心理学者スタンリー・ミルグラムは、通称「アイヒマン実験」(またはミルグラム実験)と言われる興味深い実験を行っています。人間が権威者の指示にどの程度まで服従するかを調査した実験です。
実験では、被験者に教師の役割を与え、学習者(実際には役者)に電気ショックを与えるよう指示されました。学習者が誤答をするたびに、教師は電気ショックの強度を上げるよう指示されました。しかし、実際には学習者には電気ショックは与えられておらず、学習者は電気ショックを受けて苦痛を感じているかのように演技をしていただけでした。
実験結果は驚くべきものでした。多くの被験者が権威者の指示に従い、最大レベルの電気ショックを与えるまで実験を続けました。
この実験は、人間が権威者の命令に従う傾向が強いこと、そしてその命令が倫理に反することであっても従ってしまうことを示しました。
この実験は、アイヒマンの「命令に従っただけだ」という主張を実証的に検証したもので、アイヒマンの裁判に触発されて行われました。誰しもアイヒマンのように命令されれば、倫理を超える可能性があります。戦争になれば、上官の命令で原爆の投下も実行してしまいます。人命に関わることではなくても、様々な会社で命令や同調圧力によるコンプライアンス違反が発生しています。
パワハラの横行する会社では、メンタルへの負担も大きく悪は容易に倫理を超越する可能性があります。普段から自衛を心がけていないと危険です。

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