メリトクラシー

心理学

「メリトクラシー」は、「メリット」 (merit: 実績、能力)と「クラシー」 (cracy: 支配、統治) という二つの英語を組み合わせた造語で、簡単に言えば「能力主義」や「実績主義」のことです。
前近代社会は身分制社会でしたので、社会的地位は能力よりも出自や血縁によって決まっていました。政治に参加できるのは貴族だけであり、官職も家格によって制限されているのが普通でした。インドのカースト制度はその最たる例です。
一部では実力主義の制度が取り入れられたケースもあります。中国の科挙が典型例です。イスラム世界のマムルークやイェニチェリの非血縁的集団でも実力主義は存在しました。メリトクラシーは、資本主義とも相性がよく現代社会に浸透しています。一見、能力や実績に基づく公正な仕組みに見えますが、過度な競争や格差の拡大にも繋がっています。

まとめ
1.能力主義でいう能力のレンジは意外と狭い
2.メリトクラシーも結局は地位の固定化を生む
3.社会的地位を決めるのは能力よりも能力誇示能力と付度

結論
メリトクラシーは人類を幸福にはしない。資本主義的価値観の動揺が起き始めている。

1.能力主義でいう能力のレンジは意外と狭い

人間の能力にも様々ありますが、能力主義の文脈で語られる能力はかなり限定的です。一般的には会社で有用とされる能力に偏っているように感じます。
つまり社内官僚としての実務能力、営業としての交渉能力、そして一を聞いて十を知るよう な理解能力や付度能力、コミュニケーション能力等です。端的に言えば企業にとって金になる能力です。人類の大宗が狩猟採集民であった時代に求められた能力とは異なるものも多いでしょう。
学歴社会と言われて久しいですが、企業は即戦力を期待しており、学歴は一定の実務能力を担保するフィルタリングとして機能しています。大学時代の学びは重視されません。大学の運動部に所属していた学生が好まれますが、運動部は上下関係が確りしていて先輩への忖度についても基本の型が身についているからです。
ゼロ金利時代に突入して以降、企業業績は全般的に頭打ち、株主から評価される為には、 コストカットをして利益を出し株主還元をしなければなりません。教育コストはカットされ悠長に社内教育をすることが難しくなりました。即戦力を求める産業界からの声はより大きくなった結果、社会人教育は大学にアウトソースする傾向が顕著となり、大学は就職予備校化します。英語・資格・ITリテラシー等に傾注した結果、リベラルアーツは崩壊します。

2.メリトクラシーも結局は地位の固定化を生む

能力主義においては、一般的に努力すれば成功すると信じられています。能力が無いのは努力不足だという訳です。しかしながら何時間も連続して勉強に没頭できることはある種の才能です。狩猟採集時代では、真っ先に猛獣の餌食になるタイプです。その時代では、常に周囲に注意を払うことが出来て索敵能力が高い人間、言い換えれば没頭しない人間の方が生きる能力が高かったと思います。時代によってゲームチェンジは当然起きます。
勉強する努力も一定程度は才能だと思いますが、裕福な家庭であれば莫大な教育費を掛けて、子供に効率的に受験勉強させることは出来ます。
貧しい地方公立校出身者からすれば、都心の中高一貫校のカリキュラムや予備校の充実度は反則技といっても良い位の環境格差です。努力でどうにかなるレベルではありません。また、更に格差は拡大傾向にあります。
能力主義と言いながら、社会的地位は世代を経ても固定化していきます。金次第の能力も相当にあるからです。

3.社会的地位を決めるのは能力よりも能力誇示能力と忖度

莫大な教育費を投入して能力を開発し、大学を卒業して就職できたとしても安心は出来ま せん。サラリーマンであれば誰しも感じているかもしれませんが、能力と地位とは必ずしもリンクしません。
能力よりも能力誇示能力と忖度がものを言う状況に頻繁に出くわします。気の進まない付き合いも増え、度が過ぎるとオフィシャルとプライベートの境界が曖昧になっていき、ストレスが溜まっていきます。成長した実感が乏しいなか、派閥等の社内政治スキル、社内でしか通用しない作法、社内秩序優先主義が体内に浸透していきます。そして何の為に生きているのか分からなくなっていきます。
こうした虚無感の拡大は日本に限った話ではありません。
中国の若者の間で、競争社会を忌避し、住宅購入などの高額消費、結婚・出産を諦めるライフスタイルを選択する「寝そべり族」と言われる人々が増えています。経済の停滞に伴い、若者は就職や労働を通じて将来の見通しに悲観的となり、最低限の生活を維持することで、資本家の金儲けマシンとなって搾取される奴隷となることを拒否するようになっています。
日本以上に過酷な学歴社会と言われる韓国で「イカゲーム」が制作され、世界的に大ヒットした背景には、メリトクラシーによる深刻な疲弊があるのだと思います。
メリトクラシーは人類を幸福にはしません。資本主義的価値観の動揺が起き始めています。

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