物欲とは本当に不思議な欲ですよね。
例えば、ブランド物のバッグとスーパーのレジ袋は、物を運ぶという機能において大差ありません。ブランド物への物欲は大きく、レジ袋への物欲はほぼ無いのはどうしてでしょうか。
ブランド物の場合、機能を買っているのではなく、ロゴという記号を買っているといえるかもしれません。独身者には誰も意見しないので、ついつい浪費してしまう傾向があります。
物欲とは一体何なのでしょうか。
1.ブランド物への物欲は「記号消費」
CMでは、盛んに商品の優れた機能性を謳ってはいますが、先述の通り、ブランド物のバッグとスーパーのレジ袋は、物を運ぶという機能において大差はありません。
春モデルを持っているにも拘わらず、秋モデルが出れば買わずにはいられないのは何故でしょうか。機能に大差無いのは、頭では分かっていても衝動買いは止められません。
人間には合理化バイアスがありますので、「機能が良いから買ったのだ」と衝動買いを事後的に自己正当化させてしまいます。
ブランド物を所有することによる他者との差異によって、自己の欲求を満たす為に消費が行われる。このような消費潮流は「記号消費」と呼ばれています。
高級ブランド品やラグジュアリー商品等「裕福」乃至は「豪華」といったニュアンスを持つ記号の消費です。
高価であること自体が価値となっており、機能といった実質的な役割を擁していない点に特徴があります。価値が使用価値から乖離する訳です。
高級ブランドのロゴは、それ単体では消費されることはなく、バッグや洋服に宿ることで初めて有形物となります。
ロゴという機能的価値がないものが、道具的価値に付属し可視化されることで、他者に対して発信される記号が創造されます。ブランドロゴから得られる他者からの反応によって価値が生じます。
人間は、常に他者との差異を求めます。モノがあふれる消費社会で更に消費を続けさせる為、各企業はしのぎを削っています。
企業は、人間の差異への欲求には限界がないことを熟知しており、消費者に対して次々と新しいモデルを発信し続けます。
使用価値を遥かに超える価値が生じる理由はそこにあります。価値が希薄化しない程度に生産量は巧みに調整され、希少価値は維持されます。
2.物欲とは他者との差異への欲求
それでは何故に人間は他者との差異を求めるのでしょうか?
言い方を変えると、なぜ差異を求めるように進化したのでしょうか?
進化心理学が教えるところでは、あらゆる感情は進化の過程で獲得したものです。
進化は適者生存の原理に従って起こるものであり、究極的には「繁殖」と「生存」を行動原理としています。我々が生存しているのは、物欲が強く差異を求めた先祖が生き残った結果です。
クジャクのオスは、性淘汰のなかでメスから選ばれるように「飾り羽」を進化させました。
目立つ「飾り羽」を持つことは捕食者である禽獣に狙われやすいので、「生存」にとっては本来不利なはずです。その不利を相殺して余りある程に「繁殖」には有利だったということです。有性生物にとって他者との差異は「繁殖」の為に極めて重要です。
他者との差異には「美貌」もありますが、天賦のものであり、且つ化粧にも限度があります。一方で物欲の対象はお金があれば手に入ります。だからこそ際限がありません。
3.欲しいのは他者が欲しいから(欲望の三角形)
アメリカの社会学者ジラールが「欲望の三角形」という理論を唱えています。
三角形の頂点は「対象」「他者」「自分」です。
ジラールによれば、欲望とは具体的な対象に対する欲望ではなく、他者の欲望を模倣するところから始まります。
ブランド物のバッグ、高級車、貴金属、宝石等、どうして欲しいと思ってしまうのでしょうか?
確かにこれらは綺麗であったり、カッコいい物であったりします。でもそれ以上に「皆(他者)が欲しがるもの」だからではないでしょうか。
皆が欲しがるものを持っているからこそ、多くの他者(特に異性)に差異をアピールできます。本当に欲しいものなのか、他者が欲しがっているものを欲しいと思っているだけなのか、買う前に自問自答すべきですね。
但し、人間には合理化バイアスがありますから、本当は他者が欲しがっているだけなのに、自分が欲しい理屈を後付けでひねり出してしまう可能性もあるので要注意ですね。
遺伝子が生み出す欲求を冷静にジャッジできるのは、脳の前頭前野の働きによる理性だけです。
自戒をこめて述べますと、周囲から意見されにくい独身者は特に要注意です。お金が幾らあっても足りなくなります。将来のことを考慮して判断するのも理性にしか出来ません。直感による衝動買いは危険です。