地獄の発明

アニメ

地獄を描いたアニメ「鬼灯の冷徹」を見ました。ブラック・コメディの切れ味もさることながら、地獄に関する描写が多岐に亘っており、大変興味深い作品でした。この作品をみてから地獄に関する興味が湧き、いろいろ調べてみましたが、世界の地獄はなかなかバラエティに富んでいて面白いです。
それにしても、全世界で地獄という虚構が信じられていることは不思議です。古代日本には死者の国である「黄泉」がありましたが、地獄はありませんでした。仏教伝来により「地獄」が輸入されたようです。

まとめ
1.世界中で地獄が発明された
2.地獄は倫理上も必要だった
3.天国に比べて地獄の種類は多い

結論
地獄は性悪説にたった人間が現世に規律をもたらす為に発明した虚構である。

1.世界中で地獄が発明された

キリスト教では、来世は「天国」、「地獄」、「煉獄」の三種類です。「煉獄」はカトリックだけにしかないようですが、死後に罪を清め、天国に行くための準備をする場所です。
有名なダンテの「神曲」地獄篇に詳しく地獄が描写されています。地獄は9つの円状の段階(サークル)に分けられており、それぞれの段階で罪の重さに応じた罰が下されています。
最深部の第九サークルは、氷で覆われた川であるコーキュートスがあり、裏切り者たちが氷に閉じ込められています。神を裏切った堕天使ルシファー、イエスを裏切ったユダ、カエサルを裏切ったブルータスとカッシウスがいます。
仏教では、輪廻転生の概念があります。この世に生きるもの全ては六道と呼ばれる6つの世界に何度も生まれ変わると考えられており、六道輪廻と言います。
六道とは、天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道です。
地獄道は六道のうちの一種ですが、そのなかに八大地獄と呼ばれる八つの地獄が存在します。これらの地獄は、罪の重さに応じて罰が与えられ、各地獄ではそれぞれ特定の罪に対する罰があります。罰の中身は、ほぼスプラッタームービーです。
1.無間地獄:もっとも深く、持続時間が無間であるためこの名がある。親や仏を殺した者が堕ちる。他の地獄のすべての苦しみの合計の1000倍以上の罰がある。
2.黒縄地獄:罪人の体を黒い縄で縛り付け、刀で切り裂く罰がある。
3.線合地獄:罪人を石板の間に挟み、押しつぶす罰がある。
4.叫喚地獄:罪人が絶えず叫び声を上げる地獄。
5.大叫喚地獄:叫喚地獄よりもさらに罪人の叫びが大きい地獄。
6.炎熱地獄:罪人を鉄の地面に投げ出し、炎で焼く罰がある。
7.大炎熱地獄:炎熱地獄よりもさらに炎が激しい地獄。
8.無量熱地獄:罪人を鉄の壁で囲み、四方から火を吹きつける罰がある。
日本の仏教に拠れば、死後、すべての人間は三途の川を渡り、閻魔大王など十王の審判を受け、最終的に最も罪の重いものは地獄に落とされます。服役期間を終えたものは輪廻転生によって、何れかの世界に生まれ変わります。この点が一方通行だけのキリスト教と違います。

2.地獄は倫理上も必要だった

洋の東西を問わず、地獄は基本的にスプラッタームービーのような残虐な様相です。キリスト教の地獄からは帰って来ることは出来ませんし、仏教の輪廻転生でも転生前の記憶は消去されていますので、地獄の記憶を有する人間は現世にいない筈です。ということは現世の人間が創造した虚構ということになりますが、世界で共通性が認められるのは別に理由があるからです。
もし来世が無いと仮定するとどうなるでしょうか。他者の幸福を侵害してでも、私利私欲の為に暴走する人間が出てきてもおかしくありません。来世での経済合理性を考える必要がないからです。キリスト教では永遠の天国か永遠の地獄、仏教では次にどこに転生するかは、現世での犯罪ポイント次第です。地獄は心理上のストッパーになることで、現世の倫理が保たれます。

3.天国に比べて地獄の種類は多い

ダンテの「神曲」天国篇では、10種類の天国があり、どのような魂がどの天国にいるかについて書かれていますが、地獄と異なり処遇についてはあっさりしています。
仏教における極楽浄土は、極めて美しい世界が広がっており、食事をしたいと思えば七宝で彩られた美しい食器が目の前に現れ、食器には様々な美味しい食べ物が盛られているとされていますが、こちらも地獄の詳細な描写に比べればあっさりしていると思います。
天国の描写があっさりしているのは、現世の倫理を守る為に詳細にしても意味がないからです。もし天国に詳細なランクがあれば、より高次の天国に行こうとする人間が激増し、とんでもなく高額の贖有状やお札が販売されるようになるかもしれません。
地獄とは性悪説にたった権力者が、現世の民衆に規律をもたらす目的で発明した虚構と言えるかもしれません。
古代エジプトには、地獄はありませんが冥界の概念がありました。死者は冥界に行き、神の裁きを受けなければなりません。
裁きの場では、ジャッカルの頭を持つ神アヌビスが、死者の心臓と、真理と宇宙の調和を司る女神マアトの羽根を天秤にのせて重さを調べます。審判に合格しなかった死者は、ライオンとワニとカバが合体したアメミットという幻獣に魂を貪り食われ、永遠に目覚めることはできません。冥界での人生が終わります。現世の人間に対する牽制としては、地獄と効果は同じです。

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