仮に病気や怪我の為に手術を受けなければならないとします。その際に医師から「生存率80%」と言われるのと、「死亡率20%」と言われるのでは患者の受け止め方は相当異なるでしょうし、手術を受けるかどうかの判断にも大きく影響すると思います。然しながら「生存率80%」と「死亡率20%」は同じことを言い換えているに過ぎません。
このように、同じ情報が異なる方法で提示された場合、人々の意思決定や判断が変わるという心理学の現象をフレーミング効果と言います。
1.「アジア病問題」という実験
フレーミング効果に関連して、著名な行動経済学者カーネマンと心理学者トベルスキーが考えた「アジア病問題」という興味深い実験があります。
実験では被験者を、ポジティブフレーム条件グループとネガティブフレーム条件グループに分けて、以下の質問について回答させました。
質問:米国はいま、「アジア病」という伝染病の大流行に備えています。死者は600人に達する見込みです。対策としてふたつのプログラムが提案されていますが、どちらを採用しますか?
ポジティブフレーム条件グループ向けの選択肢
プログラムA:200人が助かる
プログラムB:600人が助かる確率は、1/3で、誰も助からない確率は2/3
ネガティブフレーム条件グループ向けの選択肢
プログラムC:400人が死ぬ
プログラムD:誰も死なない確率は1/3で、600人が死ぬ確率は2/3
よく考えれば分かりますが、プログラムAとC、プログラムBとDの意味する内容は同じです。表現がポジティブかネガティブの違いだけです。
結果は興味深いものになりました。
ポジティブフレーム条件グループの選択結果
プログラムA:72%
プログラムB:28%
ネガティブフレーム条件グループの選択結果
プログラムC:22%
プログラムD:78%
選択肢の表現だけを変えただけなのに、結果は逆になりました。つまり、ポジティブな表現で利益を強調されれば損失を回避し、ネガティブな表現で損失を強調されれば利益を求めようとする人間の心理的傾向を、この実験結果は示しています。
こんなことで人々の判断が左右されるというのも何だか恐ろしい気がします。
2.支持率50%の表現
よくメディアで内閣支持率等の動向について報道されますが、報道のされ方がポジティブかネガティブで人々の判断も変わってきます。
事実は変わりませんが、「支持率50%を維持」とポジティブに表現されるか、「支持率50%に下落」とネガティブに表現されるかで、受け止め方も変わります。
大事なのはあくまでも事実は変わらないということです。我々自身、周囲から日々様々な評価を受けますが、心情的には評価そのものよりも、評価の表現に影響されてしまいます。
「90点か、なかなかやるね」と言われるのか、「10点も落としたのか」と言われるのかで、喜んだり悲しんだりします。何故、こんなことになるのかというと、自分としての判断軸がないからです。誰が何を言おうが、自分として満足出来れば良い筈なのですが、手っ取り早く周囲の判断に委ねてしまうので一喜一憂してしまいます。
これは自分の幸福感の基準を他者に丸投げしていることと同義です。どこに参照点を置くかで幸福度は変わります。自分で50点以上なら幸福だと判断すればよいだけの話ですし、参照点を他者に決めさせるべきではありません。
3.自分への問いかけの重要性
結局、表現をポジティブルームで考えても、ネガティブフレームで考えても自分の判断が揺るがないのであれば、自分としては正解なのだと思います。
ポジティブフレームとネガティブフレームの両方で考えてみれば、外野の意見やバイアスを排し事実だけに基づいた純粋な判断ができるのだと思います。
「成功する確率は80%。失敗する確率も20%あるが、そうなった場合のダメージは受容できる。だからこれはやる」と考えれば、きっと後悔はないでしょう。