フォーカシング・イリュージョンに気を付けよう

哲学

「フォーカシング・イリュージョン」という言葉があります。
ある特定の状態に自分が幸福になれるかどうかの分岐点があると信じ込んでしまう人間の認知バイアスの一種です。簡単にいうと、思い込みから生じる幻想です。これは、ノーベル経済学賞の受賞者であるダニエル・カーネマンが提唱した言葉です。
具体例を挙げると、「いい学校に入れば幸せになれるはず」、「いい会社に入れば幸せになれるはず」、「結婚すれば幸せになれるはず」という根拠薄弱な幻想です。
フォーカシング・イリュージョンは一般的な共通認識と思われている点が厄介です。

まとめ
1.フォーカシング・イリュージョンの罠にはまると不幸が増幅
2.フォーカシング・イリュージョンは進化の過程で得た認知バイアス
3.ファストな思考よりもスローな思考を使う
結論
・「普通」や「常識」の根拠を疑いイリュージョンから脱出する

1.フォーカシング・イリュージョンの罠にはまると不幸が増幅

人間はしばしばフォーカシング・イリュージョンを否定的に言い換えて、「いい学校に入れなければ幸せになれない」、「いい会社に入れなければ幸せになれない」、「結婚しなければ幸せになれない」と思い込み、勝手に絶望の淵に落ちていく場合があります。勿論、いい学校に入り、いい会社に入り、結婚をして幸福な人もいますが、そのことが幸福の必要十分条件ではありません。全てを手に入れても不幸な人は不幸です。そもそも幸福の定義は、個人別に千差万別なので、そんな公理は成立しません。自分にとっての幸福とは何かを見つけること自体が大切なことです。私も未だに答えを出せずにいます。でも「自分の幸福=世間一般的な幸福」としてしまうのは、あまりに安直ですし、承認欲求の奴隷に堕する可能性があります。

2.フォーカシング・イリュージョンは進化の過程で得た認知バイアス

どうして人間にはこんなバイアスがあるのでしょうか。
進化心理学的な観点から見ると、私たちの認知バイアスを含めた心理的な特性は、人類の先祖が過酷な自然環境で生き抜くために進化的に獲得したものだと考えられています。生存や繁殖の観点から有利だった可能性が考えられます。
例えば、危険な状況に直面した時、人間はその危険を回避するために全ての注意をその危険に集中させる必要があります。
このような集中的な注意力が認知バイアスとして表れ、全体像を見失う「フォーカシング・イリユージョン」を生み出す可能性があります。
例えば、希望の大学に合格したら幸福になれるというフォーカシング・イリュージョンがなければ、受験勉強はできません。
結婚したら幸福になれるというフォーカシング・イリュージョンがなければ、結婚に踏み切れないと思います。結婚のメリット・デメリットを精査せずに、メリットしか考えないから踏み切れるのかもしれません。フォーカシング・イリュージョンは人類の種としての存続には有利に働いたかもしれませんが、種の存続と個々人の幸福とは全く関係がありません。

3.ファストな思考よりもスローな思考を使う

先述のノーベル経済学賞受賞者ダニエル・カーネマンによれば、人間の思考には「ファスト」と「スロー」の2種類があるといいます。
「ファスト」な思考(システム1)は直感的で自動的な思考で、「スロー」な思考(システム2)は論理的で意識的な思考です。
「ファスト」の思考は、瞬時に結論を導くため、脳のエネルギー消費を抑えた思考です。これが「脳の怠け癖」の正体です。直感と言い換えても良いでしょう。
一方、「スロー」の思考は、より深く、論理的に考えることを要求しますが、これは脳にとって工ネルギーを大量に消費する活動であり、脳はこのような活動を基本的に避けようとします。
しかし、「ファスト」な思考は誤った結論を導くことがあり、その原因は「バイアス(偏見)」と呼ばれます。
つまり、脳はエネルギーの節約のために「ファスト」な思考を好みますが、それが誤った結論を導く可能性があるということです。
フォーカシング・イリュージョンについても、「ファスト」な思考に任せるのではなく、「スロー」な思考で確り吟味すべきでしょう。
それが、自分の幸福にかかわることであれば猶更のことです。
哲学者キルケゴールのいう通り、絶望は「死に至る病」であり、フォーカシング・イリュージョンが原因で絶望に陥ることは甚大且つ取り返しのつかない損失です。
人間は社会的な生物であり、どうしても世間体を気にします。世間体とは往々にして一世代前の価値観をベースにしており、且つ画一的です。
ダイバーシティが浸透し、多様な価値観を認める世界になりつつある現在、ファストな思考で安直に古い価値観に従う必要はありません。
試行錯誤を繰り返しながら、スローな思考でじっくりと自分の幸福のカタチを考える余裕が欲しいものですね。

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