相反するメッセージを受けて非常に困惑する場合が多々あります。
相反する2つのメッセージに縛られ、板挟みになっている心の状態のことをダブルバインド(二 重拘束)と言います。アメリカの人類学者で精神医学者のグレゴリー・ベイトソンが提唱した 概念です。どちらの選択肢を選んでも問題が生じるような状況のことで、混乱やストレスが発生します。
代表的な例では上司が部下に「自分で考えて行動してほしい」と指示しながら、部下が自 分で考えて行動すると「指示通りに行動してくれよ」と非難する場合があります。他には上司 や先輩が「何でも聞いて」と言っていたのに、実際に聞くと「その位自分で考えろ」と非難する場合もあります。
1.日常はダブルバインドの連続
上記の例だけでなく、日常はダブルバインドの連続です。言葉として言われれば、まだ分かりやすいですが、ボディーランゲージや態度によるダブルバインドもあります。
例えば、上司が「君には期待しているよ」と言葉で励ましてくれる一方で、声のトーンが冷めている、乃至は目が笑っていないということもあります。
在宅勤務が定着し、音声だけでのコミュニケーションやメールでの遣り取りが更に多くなりまし たが、言葉や文字だけでは相手の真意が分かりづらい場合もあります。
「(笑)」や「m(__)m」等の絵文字があるのは、文字では伝えきれない感情を盛り込む為です。或いはそのように偽装する為です。
「お願いします」と「お願いしますm(_)m」の違いです。絵文字が無いと、命令的になってしまいます。「お願いします(笑)」だと、冗談なのか冷笑なのか分からない場合もあります。
2.外部へのパフォーマンスとしてのダブルバインド
上司である課長からの「何でも聞いて」という言葉も、課長と部下だけの場合、課長と複数の部下がいる場合、部長と課長と部下がいる場合で、ニュアンスが異なります。
複数の部下がいる場合や、部長がいる場合は、「良い上司だと思われたい」「部長からの評価を高めたい」という邪心から発せられた可能性もあります。
「何でも聞いて」という言葉を真に受けて、無邪気に聞きにいくと「その位自分で考えろ」と冷たくあしらわれる場合もあります。
非常に面倒くさいですが、こうした上司の言葉をどれだけ真に受けてよいかについては、常日頃からデータを蓄積し、上司のシーン別傾向を把握する必要があります。これがまた面倒くさい訳です。人間が安定的な社会関係を維持できる人数の認知的な上限は凡そ150人とされています。所謂ダンバー数です。こうした面倒くさい情報処理を伴う人付き合いは、地球の霊長たる人類の脳でも150人が限度なのでしょう。
3.指示をした本人が忘れている場合もある
更に酷い場合には、上司が指示をしたことを忘れている場合もあります。通常は言った本人の方が言われた人よりも覚えているものですが、多数の部下がいたりすると、忘れている場合もあります。
この場合、既に意味のない形骸化した指示がゾンビのように言われた側の頭に残存してしまい、ダブルバインド状態が無駄に長引いてしまうことがあります。
或いは、上司の機嫌が悪いときに発した指示と機嫌が良いときに発した指示が相反する場合もあるでしょう。躁鬱気質の上司の場合、部下は大混乱に陥ります。
勿論、上司も人間である以上、メンタルの状態は一定ではありません。いくら機嫌が悪くてもメンタルの安定した上司を演じなければならない場合もあります。理性で感情をコントロールする必要があるので、結構疲れます。それも給料のうちですが。
結論からいえば、感情が高ぶっている状態で、指示をするのは止めておいた方がいいですね。
感情は脳内から理性を駆逐してしまいますし、一度発してしまった言葉は取り消すことが出来ません。追加の言葉で取り消したとしても、相手との感情的なしこりは残ってしまいますので、完全に元通りになることはありません。「覆水盆に返らず」です。
自分がダブルバインドに陥らないことも精神衛生上は大切です。相手の機嫌のいい時に、指示の境界線をまめに確認しておくことが大切です。指示事項をメールで送って相手に確認させることも有効かと思います。こうしたビヘイビアが続くと、「あいつに指示する際は、確り考えてからにしよう」と思われたら楽です。ファジーな指示をする上司は特に要注意です。
それでも、ダブルバインドを仕掛けてくるようなら、悪意なのか健忘症なのか見極めて距離を置く、乃至は面倒くさ過ぎる場合は逃げる方がよいでしょう。