承認欲求の正体

心理学

承認欲求とは、「他人から肯定的な評価を受けたい」「否定的な評価をされたくない」「自分を価値ある存在だと思いたい」という欲求を指します。
有名なマズローの欲求段階説においては、生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求、承認欲求、自己実現欲求の5段階に分割されていますが、4段階目の欲求として位置付けられています。
SNSでは「いいね」や「リツイート」、「シェア」など他者からの肯定的評価を得ようとするのも、承認欲求と密接な関係にあります。ある意味、人間は承認欲求に隷属する存在といえるかもしれません。
ピラミッドやヴェルサイユ宮殿等の世界遺産もファラオや王の承認欲求の産物と言えるかもしれません。同時代人だけでなく未来人にも賞賛されたいと考えたに違いありません。
ある意味、最も厄介で人間特有の欲求である承認欲求は、どうして存在するのでしょうか?

まとめ
1.戦闘能力の弱い人類は社会性を高めチームワークで生き延びてきた
2.狩猟採集時代では集団からの追放は死を意味した
3.孤独への恐怖感が強く他者からの承認欲求が高い個体が生き延びた
結論
・現代では生存に承認は必要ないので拘り過ぎるのはリソースの無駄

1.戦闘能力の弱い人類は社会性を高めチームワークで生き延びてきた

サバンナに生息する獰猛な禽獣と比較すると、人間の腕力はすこぶる弱いといえます。攻撃面では牙・角・鉤爪といった武器を持っていませんし、防御面でも傷つきやすい皮膚しか持ち合わせていません。逃げ足も遅いといって差し支えないでしょう。
こうした人類がいかにして地球の覇者となり、霊長類と自称するに至ったのでしょうか。集団によるチームプレイと道具の使用が大きな役割を果たしたことは疑いないと思います。集団の規模が大きくなるにつれて、人間の脳容量も増大しました。
集団が大規模になると付き合う仲間の数が増えます。仲間の行為や自分との関係を記憶しておかなければ連携ができず不利になります。自我と他我を区別する必要が生じ、自我への拘りが強くなりました。自然淘汰の結果、脳容量の増加により記憶を蓄積して情報処理を高度化し、社会性を高めた個体が生き延びました。

2.狩猟採集時代では集団からの追放は死を意味した

集団によるチームワークによって進化を遂げた狩猟採集時代の人類にとって、追放されることは死を意味しました。
一人でマンモスを倒すことはできません。集団のなかで分業し、役割を果たす必要があります。また、一人では病気になったりケガをしたりした場合に、誰も助けてくれませんし、食料も分けてもらえません。
現代では、集団に所属しなくても所得を得る方法はありますし、貨幣経済ではお金があれば、大抵のものは手に入ります。病気になれば薬を買うことも入院することも出来ます。孤独でも生きること十分可能です。

3.孤独への恐怖感が強く他者からの承認欲求が高い個体が生き延びた

狩猟採集時代に孤独に対する極度の恐怖感が、我々の遺伝子に深く刻み込まれました。孤独への恐怖心が強く、社会性の高い個体が生き延びました。我々はそうした個体の子孫であり、常に承認されていないと無意識レベルで不安を感じるように設計されています。しかも不安の思考回路は都合よくオン・オフすることが出来ません。
承認欲求は、現代における学校・会社・コミュニティ等への同調圧力の起源とも深く関連しているといえます。日本のような略単一民族の社会では、同調圧力はより苛烈となります。内部と外部の峻別は基本的にグレーゾーンを許さないことが多いです。部外者への「いじめ」が集団内部の結束を強めますし、外部の否定は、より先鋭化することになります。宗教戦争はその最たるものです。異教徒は魔女でありサタンなので虐殺しても道徳に抵触しないことになります。
先述の通り、承認欲求が高いことは狩猟採集時代には適者生存に有利に働きました。グローバルに分業が進み、貨幣経済が浸透し、何でも購入できる現代社会では、承認欲求は必須ではありません。
例えば、休日に旅行に行きたいと思ったときに、どうして旅行に行きたいのか自問することは大切だと思います。
リラックスしたいからなのか、どうしても見たい観光地があるからなのか、それとも旅行したことをSNSにアップして「いいね!」が欲しいからなのか。
お金や時間など、個人が使えるリソースは有限です。コスパやタイパを考えることも大事ですし、承認欲求を満たしても長続きはしないことは考慮すべきです。一度満たしてもすぐに承認欲求への渇望が無限に湧いてきます。
自分が本当にやりたいことは何なのか、承認欲求を満たすことだったのかについては、普段は割と無自覚に生きているなと思います。
他者に褒められる為の人生は、ある意味他者に合わせる人生でもあります。50歳を過ぎると時間は有限だということをリアルに感じるようになります。有効活用したいものです。

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