生まれ育った風土と気質には密接な関係があると思います。それが全てではありませんが、仕事上の付き合いであっても、相手の出身地を知っておくと、話題に事欠かないだけでなく、相手の気質についてある程度想像することができます。
都道府県レベルでも風土に違いはありますが、日本の風土と日本人気質の関係はどうなっているのでしょうか。哲学者である和辻哲郎が、興味深い考察をしています。
1.風土が民族の気質にも影響を与えている
「風土」というのは、その土地の気候、気象、地質、地形、景観などの総称であり、人間を取り巻く環境や自然全般を指します。様々な風土が、家屋、着物、料理、所作、性格などのあらゆる人間のあり方に影響を与えています。
日本は、複数の大陸プレートがぶつかり合う地域にある為、頻繁に地震もあり、火山の噴火も多いです。また、台風による土砂災害や河川の氾濫もあります。また、春夏秋冬がはっきりしており、四季折々の変化が楽しめる面もあります。
こうした風土が、日本人のメンタリティーに大きな影響を与えていることは、想像に難くありません。
2.風土的類型には三種類ある
和辻哲郎は、風土の類型を大きく3つに分類しています。「モンスーン型」、「砂漠型」、「牧場型」です。
モンスーン型:アジア圏等。恩恵と猛威という二面性を持つ気まぐれな自然が特徴。受容的・忍従的な文化的特徴。「しめやかな情緒」と「台風的な激情性」。仏教・ヒンドゥー教等。
砂漠型:西アジア・北アフリカ等。死の恐怖をもたらす荒々しい自然が特徴。対抗的・戦闘的な文化的特徴。生き延びる為の団結、部族への服従と忠誠。ユダヤ教・イスラム教。
牧場型:ヨーロッパ等。大人しく穏やかな自然が特徴。合理的・科学的な文化的特徴。自然の規則性への意識、自然科学の発達。キリスト教。
なかなか見事な分類だと思います。
砂漠型で、唯一絶対神が信仰されているのも分かるような気がしますし、自然界のあらゆる事物に霊魂が存在するというようなアニミズムが生まれないのも頷けます。中東情勢は長期間に亘り厳しい状況が続いていますが、中東がモンスーン型や牧場型の風土だったら、歴史はかなり違った展開を見せていたことでしょう。
牧場型では、穏やかな自然であり、自然は征服の対象になります。ヴェルサイユ宮殿の庭園は、フランス式庭園の代表例で、広大な敷地に幾何学的な池や植栽が配置されていますが、様々な庭木が配置され、借景も含めて四季折々の風景を楽しむ日本の庭園とは大きく異なります。植物を幾何学模様に剪定したり、植物で人工的な迷路を作るような発想は、牧場型ならではです。近代自然科学の基本的発想を確立し「知識は力なり」と述べたフランシス・ベーコンが誕生したのも、牧場型のイギリスでした。
3.日本はモンスーン型の特殊形態
モンスーン型の東アジアのなかでも、中国や韓国と比較すると日本は少し特殊な感じがします。毎年のように日本列島に沿って台風がやってきて大きな被害をもたらす点が特徴的です。日本もモンスーン地域なので、気質としては「受容的・忍従的」なあり方となるのですが、他のモンスーン地域よりも不安定で変化の激しい季節風があり、季節変化との激しさと、台風等に見られる突発性が特徴的です。
気質の受容的側面としては、四季折々の様な変化そのものを楽しむ心でありながら、決してその変化自体に呑まれない持久した感情の芯を持っているということが特徴です。
気質の忍従的側面としては、自然の暴威を前に忍従しつつも、その内には闘争的な反抗心があります。忍従の内にある反抗は、しばしば台風のような猛烈さと突発性をもって燃え上がりますが、嵐の後には突然、静かな諦めが現れます。潔く散る桜の花に、日本人気質が象徴的に表われています。
そういう日本人特有のあり方を、和辻哲郎は「しめやかな激情」と「戦闘的な活淡(てんたん)」と表現しています。
「しめやか」とは「ひっそりとしてもの静かな様」。恬淡とは「無欲であっさりしていること、物に執着せず心の安らかなこと」です。
矛盾を包含した難しい表現ですが、言い得て妙とも言えます。