ビュリダンのロバ

哲学

「ビュリダンのロバ」は、中世ヨーロッパの哲学者ジャン・ビュリダンの名前に因んだ思考実験です。
空腹状態のロバが、2つに分かれた道の真ん中に立っています。
両方の道の先には、同じ量で同じ質の干し草があります。どちらを選んでも、干草までの距離は同じです。非常に合理的で賢いロバでしたが、悩みに悩んだ末、どちらの道も選ぶことができず、そのまま餓死してしまいました。
この寓話は、選択をする為の十分な理由がない場合、選択すること自体が難しくなるという概念を示しています。合理的な選択をしようとするあまり、何も選択できなくなる状況を示すメタファーにもなっています。
「餓死するくらいなら、どちらかを選択すれば良いのに」と思ってしまいますが、日常生活のなかでも類似の状況は結構あると思います。

まとめ
1.分析力の高さが決断を妨げる場合がある
2.選択の壁を超えるのは膨大なエネルギーが必要とする
3.省エネの為に直感やバイアスを進化させた人類

結論
選択に迷った場合は時間の空費等、別の価値観を入れてみる。

1.分析力の高さが決断を妨げる場合がある

この思考実験の面白いところは、「非常に合理的で賢いロバ」であったと仮定しているところです。合理的であるが故に、どちらの選択肢が合理的なのか結論を出せずにフリーズしてしまったということです。
非常に分析力の高いコンピュータが極度に緻密な計算をした結果、いずれの選択肢でも同一の数値が出てしまった場合、無限に演算を繰り返してしまいます。そういう事態を想定したプログラムが無いからです。「選択肢の結果が同値であった場合は、右を選択する」というプログラムがあったら一瞬で結論が出ます。

2.選択の壁を超えるのは膨大なエネルギーが必要とする

ただ合理的なだけでは不十分です。この寓話のロバと同様に人間には感情があるからです。何れかを選んだとしても、「別の方を選んだ方が良かったのではないか」という後悔や不安が残ってしまいます。こうした選択によっておこる苦しみを「選択の壁」といいます。
買い物に行った際によく見られるのは、色違いの製品が二つあり、どちらの色も同じくらい好きですが、一つしか買うお金が無いケースです。悩みに悩んだ挙句、買わなかったという人をよく見かけます。「選択の壁」が高いからです。
また、選択することは、膨大なエネルギーを消費すると言われます。アップルの創業者スティーブ・ジョブズは日常の決断の回数や時間を減らすことを目的として、いつも同じ服を着続けていたと言われます。服選びに迷うことによる思考のエネルギー消費を避けていた訳です。世間からお洒落だと思われるよりも、本当に成し遂げたい欲求にリソースを割くことを優先したと言えます。メタ(フェイスブック)の創業者マーク・ザッカーバーグも同じ服を着続けていることで有名ですが、同じ発想だと思います。

3.省エネの為に直感やバイアスを進化させた人類

行動経済学者ダニエル・カーネマンによれば、人間の思考には「ファスト」と「スロー」の2種類があるとのことです。
「ファスト」な思考(システム1)は直感的で自動的な思考で、「スロー」な思考(システム2)は論理的で意識的な思考です。
「ファスト」の思考は、瞬時に結論を導くことで脳のエネルギー消費を抑える思考です。これが「脳の怠け癖」の正体です。直感と言い換えても良いでしょう。進化の過程で獲得した能力です。常に「スロー」な思考(システム2)をしていては、エネルギー消費が激しいからです。
人間は、流石に餓死する程悩んだりはしません。人間の脳は怠け癖があるので、疲れたらフアストな思考(直感)で決めるからです。
ビュリダンのロバは餓死してしまいましたが、迷ったら判断が可能な命題に切り替えるべきだったと思います。
「右の干し草か、それとも左の干し草か」という命題には答えが出なくても、「悩むのに時間を空費するか、それとも右の干し草を食べて空腹を満たすか」という命題ならば瞬時に答えが出たはずです。
人生にとって些末な選択に固執し、結論が出るまで時間をかけるよりも、もっと大切なことにリソースを割くべきです。
ビュリダンのロバは、干し草の選択に決着をつけることが出来ず、残りの人生という大きなリソースを失うことになりました。立ち止まって抽象度を高めた思考にシフト出来なかったことが原因です。

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