ブータンとエクアドル

哲学

そもそも国家とは一体何でしょうか。旧石器時代には国家はありませんでした。人類史上最古の国家がいつ成立したかは不明ですが、集約的な農耕による集住が進んでいた古代メソポタミアにおいて、紀元前3300年頃にはウルク市等の都市国家が誕生したと考えられています。国民のいない国家は存在しませんから、国民が国家存在の前提であることは確かです。国家の起原については、諸説あります。例えばトマス・ホップス、ジョン・ロック、ジャン=ジャック・ルソーなどの思想家によって提唱された社会契約説では、人々が自然状態から脱して秩序と安全を確保するために、相互に契約を結び、国家を形成したと考えています。
何れにしても、元来は社会の安寧の為、即ち国民の幸福の為であった筈です。いつの時代からか、国家の為に死ぬ、または国民を犠牲にしてでも経済成長を優先するといった風潮が顕著になってきています。国民を幸福にしない国家は本来不要な筈です。

まとめ
1.ブータンは経済成長より幸福を優先
2.エクアドルも環境との調和を憲法に規定
2.西洋的価値観だけでは環境は悪化する

結論
国民の幸福よりも経済成長が優先されるのは本末転倒。

1.ブータンは経済成長より幸福を優先

ブータンは長年鎖国政策をとっていましたが、1971年に国連に加盟して以来、国民総幸福量(GNH: Gross National Happiness)を基本とした国づくりで存在感を強めてきています。GDPの成長よりもGNHを優先している訳です。
GNHには、「持続可能で公平な社会経済開発」「環境保護」「文化の推進」「良き統治」の4つの柱があり、これらを実現する為に、「心理的幸福」「健康」「教育」「文化」「環境」「コミュニティ」「良い統治」「生活水準」「自分の時間の使い方」の9つの領域が設定されています。これらの領域について、アンケート調査を実施して効果を測定し、GNH向上のために努力することが憲法に定められています。
国家は国民の為にあることが明確であり、よい思想だと思います。
日本国憲法の序文には、「われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この法を確定する。」とあります。
形式的には国民の為の国家ということになっているように見えますが、ブータン程には、具体的な国是を示すには至っていません。

2.エクアドルも環境との調和を憲法に規定

「ブエン・ビビール」はスペイン語で「良き暮らし」を意味し、南米先住民の考え方に由来する言葉です。南米のエクアドルでは、2008年に憲法が改正されました。エクアドル憲法では、人びと、地域社会、村々そして各民族がまさに権利を享受し、多文化性、多様性の尊重および自然と調和した共生の中で責任を負うようにすべく「経済・政治・社会・文化・環境システムが・・・ブエン・ビビール、すなわちスマック・カウサイの実現を保証」すると規定されています。この考え方は、経済成長を追求する現代社会に対する一種の反論とも言え、持続可能な社会を目指す上で参考にされています。「ブエン・ビビール」は、資本主義的な豊かさを相対化する理念として、南米に限らず使われるようになっています。
中南米ではスペインやポルトガルによる植民地支配が始まって以来、常に西洋的な価値観が支配的であり、先住民の価値観が見下されてきましたが、新自由主義的な生活様式が疑問視されるようになり、先住民の価値観を取り入れるようになっています。
「ブエン・ビビール」の考え方は、人間だけでなく、空気や水、土壌、山、森林や動物を含めて、環境と調和し、精神的な豊かさの中で暮らすことです。

3.西洋的価値観だけでは環境は悪化する

西洋文明は、産業革命を生み出し、資本主義・帝国主義を掲げて世界を席巻しましたが、地球環境を破壊し、二度の世界大戦を引き起こし、原水爆をも生みました。
資本の自己増殖を宿命づけられた資本主義では、リソースの天井に達する以外に経済的拡大を止める手段はなく、人間の幸福とは無関係に膨張してしまいます。資本主義による経済成長が、殆ど国是となった国では、格差が拡大し、国民の幸福が破壊されても経済成長の旗を降ろすことはありません。
ブータンやエクアドルは、人間が国家を創った意義を冷静に根本から振り返ることができた国だと思います。国民の幸福よりも経済成長が優先されるのは本末転倒です。「幸福=経済成長」で本当に良いのか真剣に考えるべきだと思います。
経済大国であることは、幸福大国であることの必要十分条件ではありません。

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