誰もが幼い頃から慣れ親しんだイソップ寓話の歴史は意外と古く、紀元前6世紀頃に古代ギリシャの物語作家であるアイソーポスによって語られたとされています。イソップとはアイソーポスのことです。
有名な寓話としては、「アリとキリギリス」「キツネと葡萄」「北風と太陽」「ウサギとカメ」などがありますが、考えてみると歴史の風雪に耐え2500年以上残っているのみならず、世界中で語り継がれているのは凄いことだと思います。
数多くの文学賞受賞作品がありますが、2500年後も読み続けられる作品は、恐らく殆どないでしょう。時代の波に左右されない人類にとって普遍的な教訓が、分かり易く表現されていることの証左でもあります。
1.イソップ寓話の教訓
イソップ寓話には、多くの教訓が含まれています。
「アリとキリギリス」では、勤勉さと先見の明の重要性が説かれています。
「キツネと葡萄」(酸っぱい葡萄)では、諦めた理由をでっちあげて自分を納得させようとする虚しさが語られています。
「北風と太陽」では、力ではなく優しさが他人を説得する最良の方法であるということです。
「ウサギとカメ」では、自己過信せず、コツコツと努力することの大切さです。
例えば、部下や生徒や子供に対して、勤勉さと先見の明の重要性を説くことは非常に難しいことですが、皆が知っている「アリとキリギリス」のメタファーを使って、「このままだと、キリギリスみたいになっちゃうよ。それでいいの?」と伝えるだけで、勤勉さと先見の明の重要性は相手に十分伝わる筈です。
普段はあまり意識していませんが、この効果は絶大ですし、複雑な内容が一瞬で伝わる点において、コミュニケーションの効率性を高めていると言えます。
2.タルムードの教訓
タルムードは、ユダヤ教の口伝律法と学者たちの議論を書きとどめた議論集ですが、なかなか面白い説話が掲載されており、それがユダヤ人の人生の羅針盤になってきたと云われます。
なかでも「魔法のザクロ」という話が興味深いです。
あるところに仲良しの3人兄弟が住んでいました。それぞれ各地で修行するため10年間の旅に出ました。10年間の旅で自分が見つけた最も不思議な物を持ち帰ることを誓い合い、10年後に再会しました。各自が持ち帰った物は以下の通りです。
長男は、世界の隅々まで見ることのできるガラスのコップ
次男は、鳥よりも速く空を飛ぶことのできる魔法の絨毯
三男は、不思議な森の中で見つけたザクロの実
長男が持ってきた世界の隅々まで見ることのできるガラスのコップを覗くと、ある国の姫が重病でベッドに寝ている姿が見えました。姫の傍では王が嘆いていました。
3人は、次男の持ってきた空飛ぶ絨毯に乗って姫のところまで飛んでいき、三男がザクロの実を半分に割ってお姫様に食べさせたところ、姫は重病から回復しました。喜んだ王は「3人の兄弟のうち誰でも姫と結婚してよい」と話します。
姫は最終的に三男を選びます。3人とも姫の回復に貢献しましたが、長男はガラスのコップを元のまま所有しており、次男も魔法の絨毯を元のまま所有しているのに対し、三男だけがザクロを半分失い犠牲を払ったからです。
つまりこの話の教訓は「犠牲なくして成功なし」ということです。
3.歴史に耐えうるのはエピソード記憶
イソップ寓話もタルムードの説話もともに歴史の風雪に耐えてきたものです。これらに表現されている教訓は、分かり易いエピソードであったからこそ記憶に残り、語り継がれてきたのだと思います。「犠牲なくして成功なし」という教訓をいくら論理的に説明されても頭に入りませんが、エピソードであれば瞬時に趣旨を理解でき且つ記憶されます。物語には映像と感情が伴うからかも知れません。
歴史が得意な人は、人物や事件に関するエピソードに興味を持てる人だと思います。年号や用語を機械的に覚えても定着はしませんし、歴史は立体的に理解できません。
エピソード記憶の塊で学ぶと記憶の歩留まりが良く高速で学べるような気がします。イソップ寓話を忘れないのは、一度読んだだけで映像が浮かび、教訓に対して感情が動くからです。
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