AIが変える思考と文化

哲学

私はキリスト教徒ではないですが、期せずして牧師の説教を聞いたことがあります。正直言って中身はよく分かりませんでしたが、興味が無かった訳ではありません。
AIの進化により、欧州ではAI牧師が誕生したとのニュースを見ました。キリスト教だけではありません。仏教でもイスラム教でもAIの活用に拍車が掛かっています。
考えてみれば、膨大な量の聖典や経典を学ぶのはAIの得意分野と言えます。それらに加えてAIが過去の説教の音声データベースを学習しつくした場合、牧師や神父や僧侶が語るよりも遥かに含蓄のある説教をしてくれるかも知れません。
信徒毎にプロファイリングし、各自の苦悩に応じたカスタムメイドの説教をしてくれる可能性もあります。

まとめ
1.AI牧師とAIブッダ
2.常に共感し肯定してくれるAI恋人
3.AIと構造主義

結論
AI利用による思考への影響は避けられない。慎重に利用すべき。

1.AI牧師とAIブッダ

ルターがドイツで宗教改革を起こした際、聖書のドイツ語訳も行っています。当時の聖書はラテン語で書かれており、一般人は読むことが出来なかったからです。
つまり聖書の内容と解釈は教会が独占しており、それが教会権力の源泉であり腐敗の温床でした。聖書には何の根拠も無い贖宥状はそうした状況下で発行され、教会の収益源となっていました。
現在では誰でも母国語で聖書を読むことが出来ますが、どこに自分の悩みに答えてくれる言葉があるのか、探し当てるのは容易ではありません。言葉の解釈まで含めて考えれば尚更のことです。信者と聖書の橋渡しこそが牧師の本分だと思います。
一方で、日本仏教においては、江戸幕府が定めた檀家制度により、寺院に一定の信徒と収入を保証する一方で、他宗派の信徒への布教が禁止されました。寺院は布教の必要性を無くし、檀家の葬儀や法事を営んで布施収入を得るだけの葬式仏教化が進行しました。
釈迦の解脱以降膨大な量の経典が作られましたが、分かり易く説明してくれる僧侶は極めて稀有な存在です。
現在は先の見えない時代です。テクノロジー同士の融合で変化は加速していますし、環境問題や格差拡大も深刻化しています。シンプルな人生設計は難しいですし、誰もが将来に不安を抱えています。
AI牧師やAIブッダは、そうした不安の受け皿になる可能性があります。共感してくれる人間を周囲に見つけるのも困難ですし、見つかっても肝心の答えが見つかるかは分かりません。しかし世界と過去の歴史には答えがあるかも知れません。検索範囲が膨大だからです。
AIが特定の方向に思考を誘導する可能性は排除できませんが、上手く活用できれば、ディープラーニングで精神的な拠り所を提供してくれるかも知れません。

2.常に共感し肯定してくれるAI恋人

2013年にスパイク・ジョーンズ監督の『her/世界でひとつの彼女』という映画が公開されました。近未来を舞台に、AIと恋に落ちる孤独な男性の物語です。アカデミー賞で脚本賞を受賞しています。
今後、こうしたAI恋人は増えていくかもしれません。人間と異なり、常に共感し肯定してくれるからです。
周囲の誰からも否定され続けた人間に、AIだけが親身に寄り添ってくれたとしたら、依存してしまう可能性は十分あります。
Amazonのサイトで、AIが次々とおすすめ商品を勧めてくるように、個人にカスタマイズされた最適に心地良いコメントを次々と提供してきます。逆に小言ばかりいうAIは遠ざけられてしまいます。

3.AIと構造主義

構造主義とは、人間の思考や社会が、目に見えない構造によって規定されるという考え方です。言語は人間の思考様式を規定します。日本語の社会と英語の社会では思考様式が異なります。
欧米主導で育てられたAIが普及すれば、その思考様式が世界に普及します。中国政府は警戒感を強め、チャットGPTの使用を停止しました。
BC4世紀にアレキサンドロス大王の東方遠征によって、ギリシャ文化とオリエント文化が融合してヘレニズム文化が誕生しました。コスモポリタニズムも生まれました。
特定の文化圏に属するAIが世界を席巻するのか、AIがあらゆる文化を飲み込んで融合が起きるのか、各国が固有の文化や思想を守るべくAIを規制して分断が進むのか、今後の帰趨は分かりません。国による縦割りの分断だけでなく、世代による横割りの分断も起こり得ます。
AI利用による思考への影響は避けられないですが、そのことを自覚して使わないと、人間はただ手玉に取られるだけの存在に堕するかも知れません。

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