辺境としての日本

哲学

内田樹氏の名著「日本辺境論」を読了しました。非常に面白かったです。
自分も日本人ですが、昔から日本人は変だなと思っていました。神社にも寺にもお参りに行きつつ、クリスマスを祝ったりします。この宗教的な無節操ぶりは本当に謎です。また、幕末には尊王攘夷が叫ばれていたのに、明治維新後には西欧を手本とした文明開化に邁進しました。この切り替えの早さとポリシーの無さも謎です。
学生時代に日本史を学びながら、この不思議な国民性は、日本がユーラシア大陸の端にある島国で、東大寺の正倉院にペルシアなど西アジア起源の宝物があるように、文化の吹き溜まり地点だったことと関係しているのではないかとボンヤリ思っていました。

まとめ
1.日本は大昔からずっと辺境だった
2.辺境ゆえにキャッチアップが極めて得意
3.日本が中心になることはない

結論
辺境に徹する戦略でしたたかに学び続けるしかない。

1.日本は大昔からずっと辺境だった

日本は邪馬台国の時代から中国を中心とする華夷秩序のなかにありました。辺境とは中華の対概念です。中華の周囲の蛮族を東夷・西戎・南蛮・北狄と呼び、日本は東夷にあたります。冊封体制のなかで、卑弥呼も魏から親魏倭王に任じられ金印をもらっていました(魏志倭人伝)。
外部のどこかに世界の中心たる絶対的価値体があり、それにどうすれば近づけるかのかによって、思考と行動を決定するのが辺境人たる日本人のメンタリティーです。
大和朝廷が日本を統一し、建国神話は古事記に纏められましたが、何故この国を作ったのかという国家理念がある訳ではありません。
フランス革命やアメリカ独立のような過程を経て、確固たる国家理念に基づいて建国を勝ち取った訳ではありません。また、中華思想のような宇宙観もありません。
拠って立つ理念がないので、他国との比較を通じてしか自国の目指す国家像を描けません。寧ろ、ルース・ベネディクトが「菊と刀」で述べているように、親しさに固執し、場の親密性を自分のアイデンティティの一貫性よりも優先させる傾向があります。支配的な権力との親疎を最優先に考えるので、日米同盟が最重要になります。長いものには巻かれることで、親密度を示そうとします。
欧米人は聖書を道徳の拠り所にしますが、日本人は古事記を道徳の拠り所にはしません。古事記には人間はどう生きるべきか書いてないからです。建国の理念も宇宙観も書いてありません。

2.辺境ゆえにキャッチアップが極めて得意

日本人はずっと辺境人でしたし、今も辺境人なのですが、卑屈になることは一切ありません。太古の昔から、自らを愚者として、謙虚な態度で外来の知見に無防備に身を拡げることにより、多くの利益がもたらされることを歴史的経験として習得してきたからです。
仏教が伝来したら、神仏習合で神道と仏教を融合し、巧みに知見を吸収してきましたし、西欧文明もあっという間に吸収しました。
辺境人は、自分は遅れているという自覚を持っているので、急激にキャッチアップすることが得意です。昔から絶対的なポリシーがないので、あまり深い疑問を持つことなく外来の知見を吸収し、多大な成果を上げてきました。
西欧のキリスト教世界が地動説を受け容れるのに長い時間を要しましたが、日本で初めて地球儀を手にした織田信長は、地球が球体であることを一瞬で理解し受け容れました。
太古からプロの辺境人として様々なものを受け容れてきた日本人には、洗練された選球眼があり、無益なものを先駆的に回避する直感があります。中国から律令制度は導入しましたが、科挙と宦官は採用しませんでした。無防備に受け容れますが、自分が傷つくようなことはしません。

3.日本が中心になることはない

二千年もの間、辺境人としてやってきましたので、今後も中心になるようなことは恐らくないでしょう。独自の宇宙観を構築し世界標準を自ら設定することも無いでしょうし、超大国になることもないと思います。
日本は自動車大国ですが、自動車を発明したのは日本ではありません。インターネットはアメリカ国防総省の高等研究計画局(DARPA)のプロジェクトによる発明で、GAFAが世界を席巻していますが、キャッチアップのステージになったら日本が強みを発揮するかもしれません。
現在、日本は世界最速で少子高齢化が進んでいますが、先行者の立場で気負ってしまうと国民性からして思考停止に陥ってしまうと思います。
辺境に徹する戦略で、したたかに外部から学び続けるアプローチが必要だと思います。
スティーブ・ジョブズは、スタンフォード大学の卒業式で行った有名なスピーチの中で、「Connecting the dots」(点と点をつなぐ)の重要性を指摘しました。
大学時代に取ったカリグラフィ(書道)の授業が、後にマッキントッシュのフォント開発に影響を与えたそうです。将来どのように役立つのかは必ずしも明確ではないが、それでも自分の興味や好奇心に従って経験を積み重ねていくことの大切さを述べています。
辺境人たる日本人が、世界中の知見を謙虚且つ無防備に学び続けた先に、「Connecting the dots」が起こり、少子高齢化へのソリューションに結実するかもしれません。課題は個々が持っている点同士を高速で繋がりやすくするインセンティブの設計です。

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