チューリング・テストと癒しロボット

哲学

チューリング・テストとは、イギリスの天才数学者アラン・チューリングが1950年に提案した、人工知能(AI)が人間のように思考する能力を持っているかを評価するためのテストです。
チューリングは、ナチスドイツのエニグマ暗号の解読に成功したことでも有名です。
テストの方法は、以下の通りです。
人間の審査員が、1人の人間と1つのプログラムに対し会話をします。人間もプログラムも、審査員に人間と思われるように会話をします。実験の参加者は全員隔離されているので、会話の内容以外からは相手を判断できません。会話を終えて、審査員が人間とプログラムを区別することができなければ、そのプログラムは合格。つまり「人間並みの知能を持っている」とみなせるという訳です。審査員の30%以上が、相手が人間かプログラムか判断がつかないことが、チューリング・テストの合格の一つの基準とされています。
2014年6月8日、英国レディング大学で実施された実験において、ウクライナ在住の13歳の少年という設定のプログラムを、審査員の30%以上が「人間である」と判断し、チューリング・テストに初めて合格したとして話題になりました。

まとめ
1.AIは人間のように思考するようになる
2.癒しロボットが死なないペットとして普及する
3.生物はアルゴリズムの集合体に過ぎない

結論
近い将来、人間の定義が拡大し、死の再定義が必要になる。

1.AIは人間のように思考するようになる

米国の生理学者ベンジャミン・リベットの有名な実験もあり、人間には実は自由意志がないという説が有力になりつつあります。
ゾウリムシやアメーバ等の単細胞生物は、壁にぶつかると方向を変える掃除ロボットのように、外部からの刺激に特定の反応をしているだけです。多細胞生物である人間も同様です。無数の因果関係に伴う数多の脳細胞の複雑な並行処理を自由意志と事後的に思っているだけです。自由意思を認識する前に、無意識のアルゴリズムに従って、脳の特定の部位が活動を始めていることが実験で判明しています。
チューリング・テストに合格したAIには思考する能力が無いと主張することは、今後増々難しくなると思います。素材がシリコンか有機物かの違いはあるにせよ、AIも人間も外部からの刺激に特定の反応をしているに過ぎない点については、無差別だからです。

2.癒しロボットが死なないペットとして普及する

ソフトバンクでペッパーの開発に携わった林要氏が作った会社で、ペットのようなロボット「LOVOT(ラボット)」が開発されています。ソニーもかつてアイボというロボットを製造していました。
人間はイヌやネコに対し愛着を感じます。愛玩動物の高度な認識能力と移動能力、温かさなどフィジカルな感覚が一体になって愛着が形成されるという仮説に基づいて、LOVOT(ラボット)は開発されたそうです。体のどこに触れても反応するセンサー、コンピュータの放熱を利用した疑似的な体温等、非言語的コミュニケーション能力を高める開発が進められています。
今後も人間の愛着のメカニズムに関する研究がさらに進み、愛玩動物以上に愛着を感じるロボットが出現する日もくるでしょう。
開発企業でペット版のチューリング・テストが実施されるかもしれません。審査員の30%以上が「本物のイヌより可愛い」と判断し、テストに合格して生産開始にゴーサインが出るなんてことが起こります。
元々日本人はロボットが好きです。鉄腕アトムやドラえもんに何の抵抗感もありません。ドラえもんも量産型の子守用ネコ型ロボットです。
癒しロボットに会話機能迄ついたら、爆発的に売れるかもしれません。生成AIですら、かなり確りしたチャットが出来るのですから、人間が喜びそうな会話上手の癒しロボットが出現してもおかしくありません。

3.生物はアルゴリズムの集合体に過ぎない

単細胞生物も多細胞生物も、特定のアルゴリズムに沿って外部刺激に反応しているに過ぎません。多細胞生物であってもクラゲ等の動物には脳がありませんが、泳ぐことやエサを食べることができます。掃除ロボットのように、外部からの刺激に特定の反応をしているだけですが、複雑な動きは可能です。脳が無いので心も無いと思いますが、人間と異なり感情を進化させる必要が無かっただけです。
独自の進化を遂げて、現に世界中で確りと繁殖しているという点において、クラゲと人間に優劣はありません。
人間の心や感情といったものも、進化の過程で獲得したものである以上、AIが一機能として感情と近しいアルゴリズムのプログラムを持つ可能性はあります。
そうしたアルゴリズムを持った個体に人間同様の法的権利を与えるのか、つまり人権をどこ迄認めるのかについて議論になる日がくるでしょう。人間の法的定義が拡大する可能性もありますし、人格らしきプログラムの複製が可能となった場合には死の再定義が必要になるかもしれません。

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