「スモール・イズ・ビューティフル」と資本主義

社会学

「スモール・イズ・ビューティフル」は、イギリスの経済学者シューマッハーによって執筆された経済学に関するエッセイ集です。現代の物質主義や消費主義を批判し、環境問題に取り組むことの重要性を訴え、世界的なベストセラーになりました。
イギリス政府の経済顧問だったシューマッハーは、ビルマ政府(現ミャンマー)に経済顧問として招かれて現地を訪れた際、現地の仏教徒の生活に感銘を受け、特に八正道の正業・正精進に基づいた仏教経済学を提唱しました。
彼は、無制限の経済成長と物質至上主義が環境問題を引き起こし、人間の精神的な幸福を損なうと考えていました。

まとめ
1.資本主義は限界かもしれない
2.資本主義は中心と周辺を必要とするシステム
3.グローバリゼーションによって拡大する格差

結論
経済成長は実は必要ない。

1.資本主義は限界かもしれない

私も長きに亘りサラリーマンをやってきましたが、資本主義社会は限界に来ているのではないかと思うことが年々増えてきました。
かなり前からずっと金利は低いままですが、本格的に経済が浮揚する気配はありません。会社の利益率がゼロに近いので、お金を借りてまで投資をしても意味がないということです。資金需要が無いので、金利も上がらない状態がずっと続いていました。
これだけ長期間に亘り金利が上がらないということは、日本全体の利益率が低いということです。エコノミストの水野和夫氏が述べているように、世界史上、極めて稀な長期にわたるゼロ金利が示すものは、資本を投資しても利潤の出ない資本主義の死です。

2.資本主義は中心と周辺を必要とするシステム

水野氏が述べているように、資本主義は、中心と周辺から構成されています。周辺、つまりフロンティアを広げることによって、中心が利益率を高め、資本の自己増殖を推進していくシステムです。
世界史を見れば明らかです。近代の欧米列強は、世界中に広大な植民地という周辺を持ち、搾取することで中心である自国の利益率を高めていました。
戦後も先進国という中心に対して、発展途上国という周辺があり、先進国は繁栄を謳歌してきた訳です。いわゆる南北問題です。先進国が独占的に地球上の資源を安く手に入れることが出来ました。
歴史上、ずっと資本主義は中心と周辺を必要とするシステムでした。しかしながら地球が有限である以上、周辺はいずれ消滅します。利益を上げる周辺が消滅すれば、資本の自己増殖はストップします。その兆候が利子率ゼロの世界です。

3.グローバリゼーションによって拡大する格差

新興国も発展し、もう世界に地理的・物的空間における周辺は残っていません。世界的に利益率が低下した結果、アメリカを中心に電子・金融空間にマネーが流れ込み、頻繁にバブルの発生と崩壊が起こるようになりました。
バブル崩壊時に国家が公的資金を注入し、巨大金融機関は救済される一方、負担はバブル崩壊でリストラにあう形で中間層に向けられ、貧困層が増加します。
資本主義とグローバリゼーションは、別の周辺を生み出しました。グローバル資本主義とは、国家の内側にある社会の均質性を消滅させ、国家の内側に中心と周辺を生み出していくシステムです。アメリカの中心はウォール街、周辺はサブプライム・ローンの利用者です。日本の労働規制の緩和、非正規雇用者の増加も同じ脈絡のなかでの話です。利益率の下がった企業が、利益を上げるには人件費を下げるのが簡単だからです。新自由主義において、資本配分を市場に任せれば、労働分配率を下げ、資本側のリターン(配当)を増やすので、富む者がより富み、貧しい者はより貧しくなるのは自明なことです。当然格差は拡大します。
日本も高度成長期には、企業業績もサラリーマンの給料も好調に推移しました。分厚い中間層が形成されてことで、民主主義も安定していました。
しかし、世界から地理的な周辺が消滅した結果、世界的に企業業績は低迷し、資本の自己増殖を続ける為に人件費のカットが蔓延します。カットした人件費は配当に回ります。
格差が拡大することで、分厚い中間層は崩壊し、絶望した市民は自国ファーストを唱えるポピュリストに投票し、民主主義は不安定化します。
企業は毎期成長する計画を立てますし、国は毎期経済成長する戦略を立てます。しかしながら、地球は有限なのに永久に成長することなんてあるのでしょうか。
競争を基本原理とする資本主義は、本当に最善のシステムなのでしょうか。経済成長は実は必要ないのではないでしょうか。
新しいシステムを創造する必要がありそうです。今のままで良い筈がありません。社会主義は既に失敗しました。仏教経済学のように成長を前提としない選択肢が考えられますが、人類が答えに辿り着くには、黒船のようなショックが必要なのかもしれません。

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