認知的焦点化理論

哲学

「認知的焦点化理論」をご存知でしょうか?
社会工学者の藤井聡氏が主張している理論ですが、運と不運について考察しており、なかなか面白いです。この理論は、X軸とY軸のデカルト座標で表現することが出来ます。
X軸は社会的・心理的距離軸です。原点から離れるに従って、自分→家族・恋人友人・知人⇒他人となり、自分からの社会的・心理的距離が離れていきます。人間関係において、どこまで配慮するかを示します。
Y軸は時間軸です。原点から離れるに従って、現在→自分の将来⇒子供達の将来⇒社会の将来となり、現在から将来に向かって離れていきます。どれだけ長期的視野で考えるかを示します。
この二つの軸を結ぶ曲線で囲まれた面積が「配慮範囲」です。「配慮範囲」が広ければ広い程運がよく、狭ければ狭い程運が悪いとされています。
「配慮範囲」が狭い方から広い方に向かって、犯罪者→利己主義者→運の無い人→普通の人→利他主義者と分類され、利他主義者が最も運が良く得をすることになります。

まとめ
1.利他的であることが結局は得である
2.利他的であるように人類は進化した
3.裏切り者を許さないのは人間だけ

結論
打算的な人付き合いでも良いが、長期的視野は保つべき。

1.利他的であることが結局は得である

「認知的焦点化理論」の結論を一言でいえば、「利他的であり、且つ自分が死んだ後の社会全体のことまで考えている」人物こそ運が良くて得をすることになります。この場合の得とは、経済的・金銭的な得に限らないと解するべきでしょう。
直感的には首肯できる内容かと思います。簡単に言えば、配慮範囲の広い人は、人格者や有徳者であり、見識が高く多くの人に信頼され周囲からの協力が得られますので、成し遂げたいことも成功する確率が高く、満足度も高いと思います。
利己的な人物は、幾ら財産を持っていてもルサンチマンの対象にしかならないですし、誰からも尊敬されませんので、決して運が良いとは言えません。

2.利他的であるように人類は進化した

動物としてはとても屈強とは言い難い我々ホモ・サピエンスが、霊長を自認し食物連鎖の頂点に立つことができた理由は、頭脳を駆使した道具の使用とチームワークのお陰です。
突然変異による認知革命で、ホモ・サピエンスは抽象的な概念を理解し、それを言葉で表現する能力を獲得しました。これにより複雑な社会構造を築き、文化や宗教、法律などの虚構の概念を共有することが可能となりました。
国、会社、宗教といった物理的に存在しない虚構の概念を共有し、ダンバー数を越える巨大なチームを編成することで、最終的にネアンデルタール人を滅ぼし唯一の人類となった訳です。
自己を犠牲にして集団を勝利に導く人間が多い集団であればある程、進化上で有利だったと分析されています。人間が承認欲求の奴隷である理由もそこにあります。集団の為の自己犠牲は周囲の賞賛を浴びることが出来るからです。
利他的で評判が良く、自分が死んだ後の人間にまで賞賛されることに幸福を感じるように、我々はプログラムされています。

3.裏切り者を許さないのは人間だけ

チームワークで生き延びてきたホモ・サピエンスですが、協力関係には常に裏切りのリスクが付きまといます。
集団の構成員が全て人格者で有徳者であれば裏切りのリスクは低いでしょうが、集団が大きくなればなる程、知己の無い人間との関係は希薄となりますし、裏切りリスクは増加します。
人格者であってもお人よしではダメです。ホモ・サピエンスはチームワークを高度化するだけでなく、裏切り者探知能力も高度化させました。視線を合わせない、ぎこちない笑顔をする、足をソワソワさせる等の挙動不審な仕草を察知して疑う能力を高めてきました。
裏切りや不倫・浮気は、チンパンジーや鳥等の動物でもしますが、露見した場合に処刑等の過酷な制裁を加えるのは、恐らく人間だけだと思います。
チームワークを損なう行為に対する容赦ない仕打ちは、人間にとってチームワークの維持が倫理上の至上命令だからでしょう。苛烈な同調圧力が存在するのも同じ理屈と思います。
「認知的焦点化理論」における配慮範囲の広い人は、直感的にそれが得であり運が良くなることを分かっているのだと思います。
釈迦が前世で飢えた虎に自らの身体を捧げて虎の命を救ったという物語(捨身飼虎)がありますが、実際には真に利他的である人は恐らくいません。利他的であることにより幸福感が得られ得だから利他的な行為をしているだけです。高次元の利己主義者です。
打算的な人付き合いでも良いかも知れませんが、少なくともどの位長く付き合いが続きそうなのか、ある程度長期的視野を保って付き合った方が得だと思います。長年サラリーマンをやっていると段々間合いが分かってきます。

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